コックと泥棒、その妻と愛人

The Cook The Thief His Wife & Her Lover
高級フレンチレストランに集う泥棒とその妻、学者やコックやチンピラや俗物たち、ゴージャスな料理と衣装に包まれたアーティスティックな画面に、どろどろぐちゃぐちゃの人間関係が渦巻く。欲望と快楽。
コックと泥棒、その妻と愛人

ピーター・グリーナウェイも今や巨匠。この人の攻撃的な芸術性は支持者も多く、私も「ZOO」公開時に一気に気に入って大興奮して3度劇場に足を運びました。美しくてどろどろしていて攻撃的でシャープでクール。今でもこの「ZOO」が一番好きです。
日本で立て続けに作品が公開されて何本か追いかけていましたがいつの頃からかインテリ臭い映画を敬遠して馬鹿映画ばかり見るようになるマイブームの訪れと共に離れていっておりました。
そういえばこの「コックと泥棒、その妻と愛人」を何故か観ていなかったぞと気づいたのは、最近ピーター・グリーナウェイ監督のインタビューをネットで見かけて巨匠を思い出したからでもあります。

インタビューの中で監督は「映画は死んだ」ときっぱり。

そういえば「文学は死んだ」とか「絵画は死んだ」とか、すぐ死んだ死んだ言うのはインテリの悪い癖です。
で、監督は劇場映画ってのは死んで、今は家でテレビで観たりネットで断片的に観たり携帯画面で観たり、そういう「ちょっとしたもの」に変貌してきてるので、暗い劇場で観る2時間の投射映画ってのは完全に過去のものであると言います。これからの映画はiPodでちょこちょこ観るだけの暇つぶしで十分であると言うようなことを皮肉を込めて断言しています。
たしかに仰るとおり。暗くて大きなスクリーンで観る映画文化は完全に過去のもので、こんなのが好きな人は過去の作法に囚われる時代遅れの伝統文化ファンの少数派にすぎません。今時の人の多数派は映画なんか観ませんし2時間もじっと座ってられません。

畜生。やっぱり映画は死んでたんだな。

と自虐的に終わった終わった言いながらせめて大きなスクリーンで集中して映画を観るわけですが、そんな話よりこの作品を紹介しなければ。

カッコいいレストランのシーンがほとんどを占める「コックと泥棒、その妻と愛人」はまるでグルメ映画のように料理や飲み物が登場します。
登場する料理はイタリア人シェフのジョルジオ・ロカッテリが担当だそうで、もちろん私はジョルジオさんを知りませんが、きっと著名なシェフなのでしょう。
登場人物たちのきらびやかな衣装はジャン=ポール・ゴルチエが担当だそうで、もちろん私はゴルチエさんの名は知っていてもその方名義のお洋服は持っておりません。
ここまでくれば是非この先は「カッコいいレストランのデザインをした人」「アート担当の人」と、著名な名が続いて欲しいところですがその情報はありません。残念。
映像の美しさ、構図の緻密さは今更言うまでもありません。本作では色というものに過剰に力を込めたカラー構成が見物です。

登場する泥棒は「泥棒」から受けるこそ泥のイメージではなくて、組織的な大泥棒、ヤクザっぽいちょっとした組織のボスです。グルメを気取りインテリや文化人に憧れますが味もわからず粗暴な振る舞いをする俗物です。
かっこいいフランス人シェフはこの男を嫌ってますが同時に畏れていて、レストランから追い出すことが出来ません。
ボスの妻も畏れています。実際に虐待されてもいます。その妻がレストランの常連客で本を読む学者に惹かれるんですね。あら本物のインテリだわ。私インテリ大好き。
あろうことか暴力亭主と同席のレストランでこの連中と来たら・・・・。

まあそんな感じのお話で、どきどきするやらぞわぞわするやら、大変なことになってきます。

そもそも食事というのはいくら気取っても逆説的には口うんこと言うべき生理的な生々しいものです。摂取と排泄はセットですが、排泄が人目をはばかるのに対し、摂取はさらけ出します。だからこそグルメとか言ってさまざまな装飾を身に纏うのですが、相当な無理をしているものなのですね。
欲望の具現化のひとつの極端な例が食事です。
この映画では、ゴージャスな料理と美しい内装や映像で着飾った欲望と生理をこれでもかと突きつけます。ものすごく汚いものを見たような気になれます。

1989年のこの作品、現代に見る負の側面があるすれば、ちょっと時代遅れと感じるファッションやスタイリッシュ処理の感覚かもしれません。でもそんなのは問題のうちに入りません。あと10年したらまたこれが超クールかっこいいって思うかもしれないし、この作品の普遍的価値はちょっとやそっとの流行の変化などものともしません。

2009.07.27

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