スペイン一家監禁事件

Secuestrados
スペイン一家監禁事件
公開年:
2010
製作国:
監督:
製作:
製作総指揮:
脚本:
音楽:
編集:
主演:
出演:

ヨーロッパ中で多く起こっていると言われている犯罪、押し込み強盗を真っ向勝負で描いたスーパーナチュラルクライム最悪系映画。越してきたばかりの裕福なご家庭に強盗がやってきます。これは来ます。これはかなりぐーっと来ます。覚悟しいや。

スペイン一家監禁事件

日本ではどちらかというと泥棒にも気弱なところがあって空き巣狙いのほうが多いんではないでしょうか。知りませんけど。ヨーロッパでは押し込み強盗が多く起こっていて社会問題化しているらしいですね。

空き巣狙いと違って、家に人がいようが何だろうがお構いなしに押し入ってきて強奪したり暴力を振るったりするわけですよ。泥棒と強盗ではそれはもうぜんぜん違います。恐ろしいですよ。ほんとに怖いですよ。

「スペイン一家監禁事件」というこの映画、そういった押し込み強盗の事件を描いている作品です。被害者は大きなおうちに越してきたばかりの裕福な父母娘の三人家族です。

突然強盗が現れて嫁はんや娘を縛り上げて人質にし、父ちゃんに現金を作らせに行かせたりします。
「おい父ちゃん、変な真似すると家にいる仲間が家族をとんでもない目に遭わすぜ」
父ちゃんなす術もありません。

この映画には映画としての見事さが詰まっています。しかし、正視に耐えない犯罪の恐ろしさも情け容赦なく突きつけます。したがって、単なるスリラーや単なるクライムサスペンスとはわけが違います。怖いと言ってもホラーテイストでもなく、どちらかというとリアリズム系に近いです。ですので気分が悪くなります。耐性がなければ体が受け付けない人もきっといます。触るな危険シールを貼るべき映画です。

わりと最近「ファニーゲーム」の名を宣伝に用いた中途半端なスリラー映画を観ましたが、こちらの宣伝部隊はファニーゲームのファの字もハネケのハの字も出しません。でもいろんな意味で「ファニーゲーム」を引き合いに出してもよいと思える傑作というか問題作というか怪作です。

ただのリアリズムではないという点が大きく評価できるところです。生々しく極端なリアリズムの作風もいいのですが、これはそうではありません。ある程度ドラマチックです。ある程度娯楽スリラーに見えなくもないんです。

序盤なんかお約束みたいに「引っ越しのお祝いディナーよ」「やだあたし約束あるもんパーティ行くもん」「今日は駄目よ家族で過ごそうって言ってたでしょ」「やだやだパパ行ってもいいでしょ」「気をつけて行ってこいよ」「あなたっ娘を甘やかさないで」みたいな定番ドラマも展開されています。そのせいでつまり心構えとして、こちらは油断してしまうんですよ。だってそこいらのよくあるサスペンスドラマみたいな始まりなんだもん。

しかし直後、どばばばーっと強盗団が入ってきて一気に怖い夜になります。強盗団の登場シーンはものすごくクールでスピーディです。予感もクソもなく、突如としてホームドラマをぶちこわします。ここでこれまでの普通のドラマっぽさというものが一瞬にして消し飛びます。

まるで、せっかくいい感じでホームドラマを作っていたのに乱暴者が乱入してきて撮影が中断したみたいな感じさえ受けます。
この演出は実に見事です。

ドラマっぽさというと難しいのでここはいつものように虚構と言うのがいいですかね。

虚構であることを隠さない虚構が犯罪リアリティの物語へとシフトした時に観る側の心構えを打ち砕きます。

一行で書いても飛ばしすぎで余計難しくなり意味不明でしたね。つまりこうです。

リアリズム描写に偏りすぎてもリアリズムから遠のくご時世です。もうみんな慣れていますから。ですのでここで敢えて虚構を強調する作風を選びます。そうすると観客は虚構にもっと慣れていますから、ごく普通の虚構に対する心構えをいたします。そこで僅かに裏切ります。少しリアリズムに寄せたりするんですね。虚構であるからこそ逃れられないのだぞという恐怖を演出するんです。虚構ゆえの恐怖です。そして、普通の虚構では避けるような演出を容赦なく見せつけるんですよ。

たとえばの話、アメリカ映画なんかでは小さなお子さんは絶対に殺されたりしません。そういう虚構のお約束がありまして、観客もそれを承知して安心して犯罪映画を観たりします。しかし「スペイン一家監禁事件」ではそのお約束を許しません。

「虚構なら危機一髪でこの局面から逃れるだろ」とか、そういう安心感を与えておいてそして裏切ります。暴力はただただ無慈悲であり都合よくは行かないのだ、と。これが「ファニーゲーム」の技法と似たところです。

この技法は単なる技法ではなく、目的に沿った技法です。その目的とは観客に恐怖を与えることです。暴力に安心も娯楽もクソもないわボケというそういう作り手の発作です。

暴力事件は恐ろしいんです。日常あちらこちらで現実に起きています。新聞の片隅で見ても、そこにリアリティを感じないのが現代人です。現実の事件なのに。

そこで虚構の役割が登場します。現実の事件に不感症になっている現代人に暴力の恐ろしさを突きつけるんですね。

だからといって教育的啓蒙的なテーマなどありません。ハネケにはありましょうが「スペイン一家監禁事件」にはありません。たぶん。ないように見えます。目指しているのはただ単なる恐ろしい事件とその被害者を描き続けることです。

まあなんて悪趣味なんでしょう。
そして、なんて凄い映画なんでしょう。

というわけで単なるひとつの押し込み強盗の話です。
犯人が超すごいサイコ野郎というわけもないし、凄いドラマチックな展開するでもないし、事件が終わって「やっぱ大事なのは家族の愛よね」みたいな間抜けな終わり方もしません。

よくよく考えてみれば、案外このような映画は珍しいと思えます。かなりユニークです。

大抵の犯罪サスペンスならもっといろんな味付けをすると思うんです。犯人がカリスマサイコ野郎とかあっと驚くどんでん返しとか連続性や派手な部分を持たせるとか。

ただの押し込み強盗の話を淡々を描いた犯罪映画という、今までありそうでなかったそういう個性的な作品です。

でも最初のほうに書いたとおり、単なるリアリティ犯罪映画でないってところも評価しているところなんです。ちゃんと虚構ならではのぶっ飛び面白展開もします。ギャスパー・ノエの「アレックス」を彷彿とさせるすんごいシーンもありました。

まあ、かなり持ち上げてますが若干残虐系ホラーのテイストもなくはないです。冒頭とか、最後のほうとか、この映画を「ホラー」と思う人がいてもおかしくないような部分もあります。でね、ホラーテイストがまた好きなものでして。どこをどう取っても気に入る要素天こ盛りなんざます。

お嬢ちゃんの壮絶演技も見事、よく頑張った。このお嬢ちゃん誰だろうと思ったらマヌエラ・ベイェスという人で、この映画以外では「オープン・ウォーター3」が日本で紹介されてます。よくまああんな壮絶演技ができましたね。

というわけで観てからちょっと日が経ってるのに興奮冷めやらず、久々の超ド級本気スリラーの大傑作に出会ってしまってわんわんわわんです。

これすごいです。暴力犯罪の恐ろしさにのけぞってください。

“スペイン一家監禁事件” への 2 件のフィードバック

  1. Movie Boo 管理人様

    はじめまして。紀平と申します。

    私は現在「映画ベース」という映画のサイトを開発しており、
    是非、映画に関心のある方からの映画のレビューや、
    サイトをご利用頂いてのご意見やご感想などを頂きたいと思っております。

    「映画ベース」

    まだまだ未熟なサイトではありますが、
    面白い映画を見つけられる、そして面白い映画を面白いと言えるサイトに
    何としてもしていきたいですので、
    どうか「映画ベース」にご登録頂き、
    ご覧になった映画の評価やレビューを投稿して頂けないでしょうか?

    突然の勝手なお願いではありますが、
    一度サイトにお越し頂き、ご利用をご検討頂けますと幸いです。

    どうぞよろしくお願い致します。

    //———-
    // 映画ベース
    //
    //
    // 紀平 光太
    // kihira@kota.lolipop.jp
    //———-

  2. ご連絡ありがとうございます。
    ウェブサイト拝見しました。
    タイトルもたっぷり入っているようで、システム的にも凄く凝ってますね。驚きます。
    人気ランキングと質の良い映画の発見という背反する要素をどうまとめていかれるのか、
    そこんところにも興味あります。
    投稿は今のところちょっとわかりませんが、映画を観る人が増えるように、サイト運営がんばってください。

コメントを残す