偽りなき者

Jagten
離婚の悲しみを背負った男、幼稚園の先生ルーカスです。子供たちからも好かれています。それが仇になり、幼稚園児の何気ない一言が彼の人生を狂わせます。
偽りなき者

簡単に言うといわれなき性犯罪の冤罪事件です。ちびっ子に好かれるルーカスですが、好かれすぎてることが仇になるちょっとした出来事があって、女の子をたしなめるんですね、そのために恨みを買い、そして悪い偶然が重なってまるでロリコンの性犯罪者みたいに思われてしまいます。
それでおもっくそ辛い目に遭います。そういう映画です。それだけの映画なんですが、これがまあ面白いと言っていいのかどうなのか、のめり込んで観てしまいます。
人が辛い目に遭ってるのがそんなに面白いのかと言われそうですが面白いんです。

親友の子供なんですね、ちびっ子の女の子です。ちょっと変わり者で、おとなしく空想の世界に入り込みやすい子です。この子がルーカスのことをとっても好きで、ませたことにチューしようとするんですね。
昔なら何でもない子供の仕草ですが今時は問題あります。それでルーカスは「口にしちゃだめなんだよ」と言います。女の子は自分の気持ちが踏みにじられたような気がして、恨みに思います。それでついうっかり、ルーカスを嵌めます。

本来なら幼稚園児に嵌める技術なんかありません。間の悪いことに、お兄ちゃんたちの変な会話や、いろんな偶然が重なって、意味もわからず変な言葉を口に出してしまうんですね。このあたりがとても面白くできています。観ていて「あーっ」「あーっ」ってなります。身をよじります。

で、性犯罪者のように思われて、ルーカスはとんでもない目に遭います。これほんとに酷いです。
日本では痴漢冤罪なんてのがよくあるそうです。まさにこういう状態なのでしょう。きついですよこれは。可哀想です。ルーカス。

実は女の子の何気ない一言がきっかけでありますが、真の悪者はこの子供じゃありません。

子供の悪意ある一言を信じ切った上に拡大解釈して勝手に変態的なことを想像してルーカスを悪者に仕立て上げる薄ら馬鹿の真犯人はもちろん幼稚園のあのおばはんとそしてあのおっさんのふたりです。
直接的にはこの二人が事を大きくし人に吹聴しまくりルーカスを陥れます。

そしてこのあたりのシーンは観客全員が「こらおばはん、ボケカスあほんだら、妙な想像ばっかりしやがって変態はお前のほうやろ」と怒り心頭になります。

この呆け茄子のおばはんとおっさんは世間に良くいる「間抜けな正義漢」です。ミニパトとか学級委員とか優等生とかウンコのおばはんと言われている手合いですね。
ネット上にもちらほらこういう連中ってのはいます。
「まーっ。ルーカスったら、ロリコンの変態なのねっ。きっと幼児に○○したり○○したり○○したりしたんでしょっ。まーっ。まーっ。変態。この変態。きっと○○なことしたり○○なことしたり○○なことしたりしたのねっ。まーっ。この犯罪者。社会の敵。まーっったらまーっ」
何のことはない、おのれのほうがよほど妄想に取り憑かれた欲求不満の変態なのであります。

嘘ついた女の子はちゃんと謝るんですよ。嘘でしたって。でもこの手の連中は興奮しきっていて聞く耳を持ちません。変態的なことをされたと言えば妄想して信じ込むのに、嘘でしたごめんなさいって言ったらそっちは信じないのですよ。

この映画、だいぶん前に観て「思い出せるかな」と思いながら今ごろ感想文書いていますが、書いているうちにどんどん思い出して、そして幼稚園のおばはんにまた腹が立ってきたりしておりまして、ちょっと興奮気味ですいませんです。

なわけでルーカスの周囲は焚きつけられた低知能の呆け茄子どもばかりになり、リンチさながら酷い目に遭います。
ルーカスの味方は知性的な数人だけとなってしまいます。でも数人でも味方がいて良かった。

もうひとり注目、ルーカスの息子というのが出てきます。
離婚して母親の元にいる息子ですが、父ちゃんと暮らしたいんだってやってくるんですね。
この息子がね、ほんっっっっっとによくできた息子でね、この息子が「偽りなき者」をここまで素晴らしい映画にしたと私なんかは思ってます。この息子は演じてる役者の顔そのものもいいし、奇跡的なキャスティングとそして演技と演出です。息子よ、お前はすばらしいやつだ。父ちゃん泣けましたよ。

てなわけで感情的な感想文でございまして、こういう感情に訴えかける映画はこういう感想でも別にいいかと、そういうわけです。

でもこれ、感情的な映画ってわけではなく、実に巧妙な脚本の仕掛けで、観客の感情を弄ぶための技術というものを強く感じます。そこは感心しまくりです。

トマス・ヴィンターベア監督、最初に観た「ディア・ウェンディ」のころとはまったく作風が変わってきておりますねえ。

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