偽りの人生

Todos tenemos un plan
偽りの人生

双子のチンピラ兄になりすます弱虫男の理想と現実。ヴィゴ・モーテンセンが変な奴を演じます。

偽りの人生

何やら真面目っぽいドラマっぽい撮り方の「偽りの人生」、医者で裕福な弱虫男がある日を境に田舎の島に住むチンピラ兄になりすましてやろうと、のこのこやってきて一悶着という物語です。

変な映画でした。
演出は女流監督アナ・ピターバーグという方ですが、この方の演出が妙にこぢんまりしていて、それでいてとても真面目に深みのあるドラマみたいに演出するもんだから、まああの、はっきり言って訳わからんのですね。

何が訳わからんかと言うと、一番わからないのが主人公です。この主人公、ヴィゴ・モーテンセンが演じてますのでついつい真面目な人みたいに見えますが実際にはとても変な男です。
大体あれですよ、双子だからって兄に成りすませるわけがありませんよね。でもこの男は上手くやれると思ったのかどうなのか、のこのこ兄のテリトリーで兄に成り代わって過ごそうとします。そして結構ちゃんとやれていると思い込んでいる節があります。でもそんなことはあり得ませんで、だから当然崩壊します。

ラストシーンでは唐突にわけのわからないラブロマンス的な変なセリフが出てきて締めます。これがあまりにもあまりなのであっけに取られ「何だこの映画」と一瞬呆れます。

呆れて見終わってあまりにも腑に落ちないのでしばらく考え込んで、それでこの映画の真の姿を見つけ出しました。

この映画は、ものすごく変な男の自滅の物語です。

全編を貫くのは主人公の不可解さです。ヴィゴ・モーテンセンが演じてるから誤解しそうになりますが、半キチの主人公の半キチな行動とその行動による崩壊までを描くことそのものがこの映画の本質なのであります(断言)

兄に成りすまして別の人生を行うというようなことは最初から微塵も成功しておらず、上手くやれそうだと勘違いしている主人公の現実との乖離、つまり壊れゆく男の顛末を描く話なのですね。

見ているこちらは、主人公の「信頼のできなさ」に気づかないままついつい彼のペースで騙されてしまうという、つまり叙述トリックの作品に非常に近いわけです。
主人公が信頼のできない語り手で、映画の見方そのものを誤解させたまま話を進め、最後に突き放してぽかんとさせる、そういう作風ですね。それに気づきました。

ヒロイン的な役割の女性が出てきまして、この女性も夢見がちなやや変な女性です。この妄想男女の変な部分がラストシーンのおかしな会話で効いてきます。

奇しくも映画の中で答えが散りばめられています。
まず序盤の夫婦の会話です。この中で奥さんが言い放ちます。「あなた病気よ」その通り、病気です。
それからもうちょっと後のシーンで「ぼくは兄のペドロだ」と平然と言って奥さんを呆れ果てさせるシーンがあります。
それから後半のあるシーンで悪者のボスが言います「お前の目的は何だ」そうです、まったくもって「目的は何なのだ意味わからん」なのです。

そもそも主人公の目的は何でしょう。本気で兄に成りすまして生きていけると思ってるんでしょうか。まったくわかりません。映画を見ているこちらが画面に向かって「お前の目的は何だ」と言いたくなるという、そういう映画です。

キラー・インサイド・ミー」という優れた作品がありましたが、あれにどことなく近いです。ただしまったく到達していませんが。

ちょっとしくじったのは演出だと思っています。真面目なドラマっぽく撮りすぎて、肝心の変な話だという部分が伝わりにくいんです。
あと、説明がうざい、というか、くどい部分や、状況説明が下手なところも目立ちます。
例えば奥さんが気づくのにわざわざ指輪の跡をアップにするとか、悪人が気づいた後わざわざマッチ箱を振らせるとか、余計な部分がくっつきます。村の状況なんかも、せっかく思いを込めて撮った割にはあまりリアルに描かれていません。抽象的すぎて島の全貌がつかみにくいんですね。

でも監督は新人の女流監督です。ちょっとくらいの不出来なんかどうでもよろしいです。ヴィゴ・モーテンセンでなくても寛大な気持ちで見るのがよろしいでしょう。

奥さん役のソレダ・ビジャミルは「瞳の奥の秘密」で大注目だった女優ですね、あれからわずかに年取って風格が増しています。この映画でもとてもいい演技していて、存在感を放ちまくっています。

変な娘を演じたソフィア・ガラ・カスティリオーネは見事なキャスティング、単なる美人ヒロインでなく、一風変わった部分を持つ変な役にぴったりフィットのお顔立ち、印象深い仕事をしましたね。初めて見る女優かと思ったら「テトロ 過去を殺した男」に出てたんですって。

見終わった直後の「何だこの映画」という呆れた気持ちは叙述トリックの見方によって幾分おさまりますが、その見方こそが大間違いかもしれず、何とも中途半端な気分は収まりきれません。
最終的には監督に「あなたの目的は何ですか」と聞いてみたい映画でありました。

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