少女は自転車にのって

Wadjda
映画館の設置も禁止されているサウジアラビア初の女性映画監督による長編映画ということで話題だった「少女は自転車にのって」は、自転車が欲しい少女ワジダのちょっとした物語。
少女は自転車にのって

知っていそうでほとんど知らないサウジアラビアの映画です。女性に厳しい制限を課している国で、映画館が一軒もない国です。海外で映画技術を学んだ女流監督ハイファ・アル=マンスールが敢えてサウジアラビアですべて撮影した少女の映画。日本でも昨年末に各地で上映していましたし監督の来日もあり、話題でした。

サウジアラビアの女流監督作品っていうことで、どうしても興味が出てくるのは日常の描写や人々の暮らしっぷり、女性の立場についてやリアルな風俗となります。この映画の売り込みとして「サウジアラビア初の女流監督」という部分は外せません。そしてもちろん監督はそのことも重々承知、初長編映画の題材として自国の日常的映画を作るという世界視野を持ちます。自国に映画館はありませんから最初から世界相手です。世界相手に映画を作るとき、自分の強みがどこにあるのかわかっているということです。

お話は少女ワジダです。ワジダは個性的で快活な女の子です。物怖じせず、制度を必要以上に畏れず、知恵があり集中力があり細かいことを気にしません。でも妙なところで細かいことを気にしたりもします。元気いっぱいキャラクターで、これはもう誰もが好感持ちます。

自転車で走り去る近所の男の子に悔しさを感じ「自転車欲しいっ」てなります。女の子が自転車に乗るなんてとんでもない!っていう風潮ですが気にしません。商店で見かけた自転車ほしさにお店に通ったりします。ここの店主との絡みで、手作りカセットテープを「友達だからあげる」とプレゼントして媚びを売るシーンとかとても気に入りました。カセットラベルの絵にも注目。
学校で行われるコーランの暗誦コンテストで優勝すると自転車を買っておつりが来るほどの賞金がもらえると聞き、まったく興味のなかったコーランを必死こいて勉強します。と、そのような話です。
近所の男の子、母親、父親、母親の友人、学校、学校の友達や校長先生などと絡みつつ、サウジアラビアの風俗や風習をきっちり垣間見せつつ、いい感じでストーリーが進み、少女ワジダの笑顔に未来への希望を感じさせつつ順当に終わるという、まこと良い映画です。

少女ワジダを見ていて真っ先に思い出すキャラクターがおりました。
マルジャン・サトラピの少女時代を描いた「ペルセポリス」のマルジです。アラブの制約の中で頑張る元気があって集中力があって個性的で家族思いのおてんば少女。ですので、ワジダを見ているとマルジと同じく「監督の少女時代を投影している部分があるんだろうな」と思わないでおれません。サウジアラビア初の女流映画監督になっていい映画作って世界で商売しようってんだから、並みの集中力や才能や気質ではとうてい不可能です。強さと頑張り、楽天的で夢と希望を実現させる精神力の持ち主です。ワジダが大人になればきっとハイファ・アル=マンスールになるに違いないと、そういう風に思いますよね。

ワジダの気質を表現する印象深いシーンがあります。彼女は一発奮起すると経験豊富な誰よりもコーランの暗唱を上手に出来てしまうほどの集中力や才能があります。その彼女が男の子に自転車を借りるシーンです。気を利かせた優しい男の子が自転車に補助輪を付けて貸してあげるんですよ。そうするとですね、それが悔しくて泣くんです。ここはほんとに面白い表現です。ワジダのこだわりの中で、補助輪を付けられたことは耐えがたい辛さであったのです。自分が舐められていること、自分がまだ自転車に乗れないという事実を突きつけられたこと、男の子の優しさを感じてしまったこと、そういうのが押し寄せてきたんでしょうねえ。このシーンのリアルさは似たような気質の人にとっては強く共感するところでありましょう。そして男の子ですが、そんなワジダを見たら誰でも惚れます。この男の子はとても優しい子でありまして、きっと将来は弱々しさが売りのモテモテ浮気症優男になることでしょう。将来が楽しみですね。

開発途上にも見える近所の景色、古いタイプの商店が残る一角、現代的な百貨店という日本でもかつてお馴染みだった異質の組み合わせによる日常の景色も堪能できます。

風習や制度や女性への制限といった点では日本でも似たようなところがかつてあったので「まるで想像外」ということもないし、アラブ世界、西アジアというところはメンタルな部分で日本人ととても近いところがあります。
はっきり言うと日本はアラブと以前から仲良くやってきたし独自外交で信頼も築いてきたし庶民レベルでの共通点もあるし、そりゃあ全然違うところももちろんあるしアラブ内での対立もあるし簡単には言えませんけれども、少なくともパレスチナに対して加害国のお仲間を気取る連中が支配する国で生き恥をさらすような現状は耐えがたいものがあります。

「少女は自転車にのって」は個人のがんばりが未来への希望に通じると感じさせる良い映画です。こういうのを機会にあまり知らない国について知ることやあれこれ考えを巡らすことはとても重要だし、異国の日常に溶け込むような気になる疑似体験ができる映画っていうのはほんとにいいものだな、とやたら素直な気持ちを強調して今日は一旦このへんで。

2012年ヴェネツィア国際映画祭で国際アートシアター連盟賞、ドバイ国際映画祭最優秀作品賞、最優秀女優賞、2013年ロッテルダム国際映画祭ディオラフテ賞受賞。

監督は撮影に関しては興味深い話もされているようです。何しろ女性が外で男性に近づいてはいけないのだから撮影も大変だったそうです。
公式サイトにもちょっと記述があったりしますが、映画の公式サイトって大抵は期間限定ですぐに消えてしまうんですよね。消えたあとは変なサイトになってしまっていることが多くて残念です。

こちらは気軽に大変だったようですなんて言ってますが、考えればほんとにすごいことだとあらためて。自国の常識やルールを全否定するかのような思想的な映画なわけですからね。これは戦いですね。

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