ヘイトフル・エイト

The Hateful Eight
「ジャンゴ 繋がれざる者」に引き続き雪の西部が舞台の「ヘイトフル・エイト」は一癖も二癖もある連中が服飾店内で繰り広げるミステリーでバイオレンスで言葉の駆け引きと疑心暗鬼と緊張感。大人のためのソリッド・シチュエーション・アクション・バイオレンス・ゴア・スラッシャー・西部劇。
ヘイトフル・エイト

うおー。最終日のレイトにギリギリ間に合ったー。
3時間くらいあるらしいし、もうDVD待ちでいいか、なんて思いつつやっぱ観たいなー、やっぱ観たいなーと駆け込みました。しかしまあ面白すぎて3時間などあっという間。「えっ。もう終わり?もっと!」と思いつつ見終わりまして、やっぱおもろいなー。

前作「ジャンゴ」と同じ時期の西部劇です。同じく雪の西部です。極寒で吹雪です。吹雪の中の馬車です。賞金稼ぎです。前作の続きみたいな設定ですが中身は全っ然違います。

雪の中を走る馬車。「おーい、俺も乗せてくれ」と一人の男。こうして始まります。乗っているのはお尋ね者の女デイジー・ドメルグ(ジェニファー・ジェイソン・リー)を手錠でつないだ賞金稼ぎのジョン・ルース(カート・ラッセル)、乗ってくるのは三人の死体を運ぶやっぱり賞金稼ぎの黒人マーキス・ウォーレン(サミュエル・L・ジャクソン)。馬車の運転手、御者はO.B.(ジェームズ・パークス)という信頼されている男です。このようにお話は始まります。
やがて怪しい男がもう一人乗り込んできます。饒舌でお調子者、目的地レッドロックで保安官になるのだという差別主義者で盗賊の倅クリス・マニックス(ヴォルトン・ゴギンズ)です。
初っぱなからこの不審な四人の危険な対話がくどくどあってめちゃ楽しめます。やっぱりタランティーノの映画は冒頭の対話シーンが楽しみ。ロッジでのミステリー話と聞いていましたが、なかなかロッジにたどり着かないので心でガッツポーズしております。この序盤でリンカーンの手紙シーンも出てきますね。

この5人が吹雪きで足止めをくらいそうだと、なじみのミニーの服飾店に行きますね。ミニーはおらず、代わりに別の4人の男がおります。もう最初から怪しさ満開です。
ミニーに留守中の店を任されたというメキシコ人ボブ(デミアン・ビチル)、椅子に座った年寄りサンディ・スミザーズ(ブルース・ダーン)、おどけた調子の怪しい首つり処刑人オズワルド・モブレー(ティム・ロス)、厳つい顔して自分史を書き「クリスマスに母さんに会いに行くんだ」と言うジョー・ゲージ(マイケル・マドセン)の四人です。

このマイケル・マドセンが「そんな人間に見えねえだろうが、クリスマスには母さんに会って家族で過ごすんだよ」とふてぶてしく言います。この厳つい顔とファミリー話のギャップが面白くて、このとき私はギタリストのタバタミツルを連想してしまい、そのせいで面白さ倍増、さらにジョー・ゲージというこの男を可愛くすら思ってしまったという逸話付きです。タバタ氏のお母ちゃんには私も若い頃お世話になっていろいろ食べさせてもらったりしてました。その節はありがとうございます。

個性的でどいつもこいつもヤバそうな奴らです。見ているだけで暑苦しいこいつらがものすごく危うい会話など行いますね。すなわち南北戦争のネタ、それに人種差別ネタですね。危うい。かなり危うい。

最初の殺人が起こり、次いでさらなる事件が起こり、あれよあれよと修羅場と化す吹雪のロッジ。これはほんとに面白くて、広報が言うような「密室ミステリー」なんてのはほんのわずかな味付けに過ぎず、実際はミステリーじゃなくてドキドキサスペンスと饒舌の応酬、そんでもって暴力と血、ホラー顔負けの凄まじいゴアスラッシャーで出来ております。密室ミステリーと思ってたら「あれ?」って思いますよ。で、そんなパワームービーで、これはおもろいです。わーわー言うている間に時間が進み、あっという間に映画が終わってしまいます。
「もっとやってー」って思ながら見終わってですね、それから登場人物を反芻してじわ〜っと味わいに浸ります。

例えば食卓でのリンカーンの手紙の話、あのときのジョン・ルースの傷ついたつぶらな瞳、やたら暢気に振る舞うデイジー・ドメルグのちょっと可愛い態度、序盤アホみたいなクリス・マニックスの人物の立ちっぷり、ウォーレン少佐の法螺話、きっちりボケ老人をやり遂げていたサンディ・スミザーズの抜け目のなさ、クリストフ・ヴァルツによく似た首つり処刑人のいかがわしさ、好感度高いO.B.、ミニーやお店の人たち、登場人物たちの魅力が見終わってからもぐんぐん迫り来ますね。

ところでヘイトフル・エイトなのに9人います。これはどうしたことでしょう。きっとO.B.は入っていないんですよ。だってO.B.は高感度高いしヘイトフルじゃないから。

この映画の怪しい登場人物たち、彼らが皆大人ばかりということに改めて感心します。サミュエル・L・ジャクソン1948年生まれ、カート・ラッセル1951年生まれ、ジェニファー・ジェイソン・リー1962年生まれ、デミアン・ビチル1963年生まれ、ティム・ロス1961年生まれ、マイケル・マドセン1958年生まれ、ブルース・ダーン1936年生まれ、若造イメージのマニックスを演じたウォルトン・ゴギンズでやっと71年生まれです。どうですこれ。「映画の華のために」とか言って無理矢理ヒロイン美女を出したり「若いのが一人くらいいていいんじゃない」とつるつる顔のイケメンヤング俳優をメインに加えたりしません。潔く中年から老齢にかけての大人ばっかり出てくる映画です。
このおっさんおばはんたち。この連中が騒ぎ、わめき、饒舌を弄し、殺し、大暴れします。これが「ヘイトフル・エイト」の最も素晴らしいところであるとおっさん仲間の私は思っています。

もうひとつ注目は美しい映像ですね。雪の景色も美しいし、密室の構図や映像も渋くてとてもいい感じです。で、これはもちろん70mmフィルムの件でありますが、そうですよね、せっかくの70mmフィルム作品ですが日本でフィルム上映できるところはひとつもありません。えっ。そうなんですか。ひとつもないんですか。なんたるちあ。みんなデジタルコピーで見ます。デジタルコピーでも元々のフィルムの質感は何となく感じることはできます。
マニア的にはとても珍しい機器で撮影された特殊な70mm作品(ウルトラパナビジョン70撮影)ってことで、これ先進国ではわざわざ機器を導入して上映したりしてるんですってねえ。日本は未開国なので仕方ないんですね。いつの日か日本が先進文明国の仲間入りするときが来るんでしょうかね(来ません)

The Hateful Eight Featurette – Ultra Panavision (2015) – Quentin Tarantino Movie HD

クエンティン・タランティーノやクリストファー・ノーランなど、大物たちがフィルム作品への熱い思いを持っておられるようですね。
クリストファー・ノーランが『ヘイトフル・エイト』70mm版の公開を称賛!「今の映画館はTVを置いた空室」と警鐘

このようにまとめられてもいますね。
タランティーノ監督『ヘイトフル・エイト』日本では70mmフィルム上映無し、デジタル短縮版上映で嘆く映画ファン

タル・ベーラはフィルムの終焉が映画の終焉であると引退しました。アメリカでは超大作ワイドフィルムの復権がもたらされつつあります。インディ作品は「金ねえもん」とデジタル撮影に移行しています。これらは同列に語るものではありません。
私個人は映画はフィルムであってほしいしフィルムの質感は大好きです。でも無理なら無理でデジタルに移行するのも潔いと思っていて、つまりこの問題に関しては完全に日和っていて主義主張は何もありません。私がこだわっているのは暗闇で投射されたかどうかってことだけです。将来、映画館のスクリーンがもし液晶に取って代わったりしたらもう劇場なんぞに何の興味も持たないでしょう。

ということでただただ面白いとしか言えない大人がはじける大人の超娯楽大作「ヘイトフル・エイト」でした。

このエントリーをはてなブックマークに追加

[広告]

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です