ハーブ&ドロシー

Herb & Dorothy
庶民でありながら抜群の審美眼と持ち前の人徳で現代美術の収集を続けてきたヴォーゲル夫妻のドキュメンタリー。 ニューヨークとアート、老夫婦の人生、アーティストと猫。
ハーブ&ドロシー

郵便局員のハーブと図書司書のドロシーです。ニューヨークで暮らすこの夫婦はアートコレクターで、何十年もかけて収集したコレクションは数千点におよびます。
特に60年代から70年代の現代美術、ミニマリズムやコンセプチュアルアートが中心で、その審美眼は確かなもの、作家からの信頼も厚く、アート業界でこの夫婦を知らぬ者はいないという有名人です。

このハーブとドロシーのヴォーゲル夫妻が、コレクションの全てをナショナルギャラリーに寄贈するというのはニュースになり、大きな話題でしたね。そんでもって、この夫婦が愛おしいほどの可愛らしさ。ニュース写真を見て驚いたものです。

二人の稼ぎのうちドロシーの給料で生活し、ハーブの給料はすべてアートのコレクションにつぎ込みます。買う作品はもちろん二人の目に止まった優れた作家の優れた作品なのでありますが、そのほかの条件として、1.アパートに入るサイズであること 2.給料で買える値段であること を厳守だそうで、実際には長期のローンで購入したり様々ですが、とにかくコレクションに人生の全てを費やしたお二人です。

「ハーブ&ドロシー」ではこの二人の若かりし頃の出会いから現在の様子、古いつきあいのニューヨークのアーティストのインタビューなどで構成されます。

まだ無名だった頃に世話になったアーティストは大物になってもその恩を忘れず、長い付き合いをされています。大物アーティストたちのナチュラルな姿も拝めてアートファンにとってもお得な作品となっていますよ。
登場するアーティストは、チャック・クロース、クリスト、ソル・ルウィット、リンダ・ベングリス、ロバート・マンゴールドなど蒼々たる顔ぶれ。60年代70年代からのミニマル、コンセプチュアルアートのちょっとしたわかりやすい解説付きです。

重厚で高価な古典美術やいわゆる「ありがた〜い芸術作品」と違って、現代美術はダイナミックです。難解と言えば難解ですが、身近と言えば身近です。変な例えですが、若い無名なアーティストの作品を買うことは好きなバンドのライブに出向いて応援するような感覚に近いのではないでしょうか。

みんなもハーブ&ドロシーを見習って、どんどんアーティストの作品を買って応援しましょう。私の作品も買ってね。

いや、そんなオチではいけません。

「ハーブ&ドロシー」は作り手の一所懸命さも伝わるドキュメンタリーで、単にアートコレクターの偉業を紹介するに留めず、夫婦の人間的な魅力も伝えます。とてもキュートな老夫婦。アートに詳しくない人でもこの素敵な夫婦の老人映画としてたっぷり楽しめますよ。猫や亀も登場します。面白いエピソードも満載。

今作ではコレクションの全てをナショナルギャラリーに寄贈するという決定をされたところまでを描きます。この話には続きがあって、実はコレクションが膨大すぎてナショナルギャラリーのキャパを超えているため、全米50の美術館に分散して収めるという計画が持ち上がったんですね。
「ハーブ&ドロシー」の続編では、この計画をメインに描いているそうです。
本作ではビデオカメラによる低予算の一所懸命ドキュメンタリーですが、続編はちゃんと美しいカメラを用いた美しい映像の作品っぽいです。本作の大ヒットのおかげでありましょう。作った人にも撮られた人にも敬意を表したいと思います。

で、その続編「VOGEL 50×50」が2012年に完成予定、というのでそろそろかと思って公式サイトを覗いてみたら・・・。

あぁ、こんなオチではいけません。こんなオチになってほしくなかった。あぁ。
「50×50」の完成が待たれます。

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