鶏小屋

El castigo
実話を元にしているという少年の矯正施設で行われた虐待を描いた作品。タイトルから想起されるエログロやショッキングシーンが売りの映画というわけでもありません。
鶏小屋

少年の矯正施設です。民間経営であり、様々な問題を含みます。
なんと言ってもこの手のお話でまず描かれる定番は閉鎖環境における支配する側のファシズムと虐待です。この映画もその手の映画と見て大筋では間違いありません。
少年の矯正施設を描いた作品には、わりと最近では「孤島の王」があります。
矯正を強制するということに関する前提については「孤島の王」のところに書きましたのでぜひお読みください。「虐待って言ったって、大したことないじゃん」「悪いことしたんだから、この程度の罰則あたりまえじゃん」といった間違った感想を持たないためのヒントになれば幸いです。
施設での強制的矯正という点では、修道院の物語「マグダレンの祈り」という映画もあります。
「孤島の王」にしても「マグダレンの祈り」にしても、正しいことを行っているはずだという信頼を得ている施設での異常な出来事を描きます。ですのでドラマとして成立しやすいですし、問題提起とか、真面目な映画として多くの観客の心を掴みます。

ですが今回ご紹介する「鶏小屋」は民間経営の見るからに怪しい矯正施設での物語です。戸塚ヨットスクール的な、ああいうやつです。最初から「ちゃんとしてるわけない」みたいな、いい加減な民間矯正施設のセンセーショナルな映画でして、前述の作品みたいな品のある映画ではありません。

ですので配給会社も「鶏小屋」なんていうわけのわからない邦題をつけて、怪しさ満開の悪趣味な映画として売り出したりします。「〜小屋」っていう邦題のシリーズみたいなのがあるんですか?あるみたいですね。もちろんそれぞれの映画はぜんぜん違う作品です。
「変態シリーズ」みたいな感じで、目を引く邦題をつけてあまり知られていない作品をリリースする意図があるんでしょうか。他の作品を知らないのでわかりません。

この「鶏小屋」の元のタイトルは「El castigo」つまり「罰」っていう、直球なものです。
比較的軽いタッチの作品ですが、少年に対する「罰」というものについて、なかなか真面目に深く取り組んでいます。最後の最後まで気が抜けない意外性も持っています。

非行少年を矯正する方法はいろんな人があれこれ考えますがなかなかいい答えはありません。どうすればいいのかなんてわかりませんが、少なくとも虐待によって強制的に従順にさせる方法は最悪の選択です。それは、錆が出てきた鉄骨の表面だけを塗装するようなものです。
暴力は暴力しか生み出さず、強制的に服従させられた体験は他者を強制的に服従させることを学ぶだけです。
罰を与えて良いのは基本的に神様だけで、無関係の人間が無関係の誰かを罰すること自体が変態的行為と私なんかは思っています。それは憎悪を発生させる以外なにもありません。例えば誰かに対して犯罪的行為を行ってとっ捕まったとしても、そのことを警察官になじられ「おいお前、反省してるんか?ああん?」などと言われたら被害者に対する反省とは無関係にこの正義面した警察官を撃ち殺したくなります。それが警察官どころか、わけのわからない民間経営のでたらめな矯正施設だったりしたら尚更です。何が哀しゅうてわけのわからんおっさんとおばはんに矯正されねばならんのか、少年たちにとっても理不尽きわまりないことです。

そのわけのわからない民間経営の矯正施設に金を払って子供を送り込むのがこの映画ではプチブル小金持ちの親です。送り込まれるのは貧困家庭の非行少年ではなく、小生意気なプチブルのガキどもです。親は子供の非行に悩みますが、怪しいセミナーみたいな会合に参加したり金だけ払って施設に預けてしまうという実に責任放棄的な解決方法を執り、子が子なら親も親、みたいな皮肉も映画全体を包みます。

というような、ちゃんとした芯が貫かれた作品でして、そしてテーマ性もさることながら、内容もなかなかおもしろいです。

5人の非行少年たちの青春映画みたいな側面もあります。虐待を受けますが、なかなか虐待にもめげずに頑張ります。監禁されて虐待を受けていても、目を盗んで悪さをしたりいろいろやります。わりと強いんですね。この連中のたくましさが見どころです。
最初に主人公っぽい少年が登場しますが、映画全体では5人がそれぞれエピソードを持っており、みんな主人公みたいです。

それから、じつは施設の悪徳連中もいい感じです。おばはんと男ふたりの3人組です。こいつらが味わい深くて個性的、下っ端の男なんか案外真面目で優しかったりします。後半に見られるこの連中のあたふたぶりはシナリオ的にも優れていて、施設経営の職業人映画としても楽しめます。まさに「はたらくおじさん〜虐待矯正施設編」です。

演出は比較的普通で、普通ならではの安心感みたいなのもあります。変なふうを強調したりもしません。やや優等生っぽい撮り方で、普通なら省略してもいいようなシーン(逃亡シーンなど)をしっかりくどめに映します。わかりきったシーンをくどくど撮るのはまるでテレビドラマみたいですが、どなたにもわかりやすい演出とも言えます。

単に非行少年と矯正施設の虐待物語という一本調子の映画ではなくて、その中にいろいろと複合的な面白さも伴っています。スペインのラテン気質がそうさせるのか、壮絶な歴史を背負ってきた国ならではの深みなのか、あれこれ詰め込みたいだけサービス精神か、特に素晴らしい映画というわけでもないけど悪いところもぜんぜんなくて、寧ろ良い映画と思います。

[追記]

もうちょっと詳しく調べてみようかと思ってデータベース見てみたら、この「El castigo」、もともとテレビ映画のようでした。
180分を2回に分けて放映したようです。
テレビ的だと思ったのは、まさにテレビだからでした。
リリースされたDVDは2時間ほどですから、3時間のテレビ映画をビデオ発売用に再編集したんでしょうか。そこまではわかりません。

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