[リミット]

Buried
暗闇で目を覚ますと棺桶の中。生き埋めにされたひとりの男が棺の中で脱出のため奮闘する閉鎖空間シチュエーション・スリラーの意欲作にして怪作。
[リミット]

こりゃまたすごい映画が現れました。登場人物は何ものかに棺桶に閉じ込められ埋められた男ひとり。アイテムは携帯電話。このシチュエーションで脚本のアイデアをこらし、緊張感を持続させたまま酸欠寸前ドラマを展開します。いわゆるアート的な意味ではないサスペンスならではの意欲的な実験作。

暗闇で目を覚ます男、最初は状況がつかめず手元のジッポで照らしてみると木製の棺桶の中に閉じ込められていることを知ります。一瞬パニクりますが携帯電話を発見。さてこの携帯電話を使って脱出への道筋を作り出さねばなりません。どこへ電話をかけ、どうすれば助け出してもらえるのか、慌てながらパニクりながら落ち着きながら、彼の孤独な奮闘が始まります。

観ているこちらも彼と状況は同じです。ここはどこあなたは誰状態から徐々にいろいろわかってきます。男の名前や仕事、大まかな場所、閉じ込められる直前に起こったことなどが時間を追うごとに観客にも示されます。

登場人物はポール・コンロイ(ライアン・レイノルズ)ひとりですが、彼が電話をかける相手というのが複数登場します。電話の声だけの登場ですが、観ているこちらは電話の先の世界をきっちり感じ取ることが出来ます。目に浮かぶように外の世界を体感させる、これぞ脚本の勝利。

閉じ込められた男の奮闘を描くこの映画、単なるワン・アイデアのシチュエーション・スリラーという一面だけに留まらず、物語の深みもまた格別です。
ポール・コンロイの仕事や立場と、彼を閉じ込めた犯人の立場との対比、そしてそれに絡んでくる電話の向こう側の人々との関係性がドラマの重要なテーマになっています。
労働者、その家族、虐げられる人々、企業、戦争、社会性も帯びる深いテーマと愛を感じさせる人間のドラマを棺桶からびしびし感じさせるその手腕に脱帽です。

虚構における各要素の理想的な融合がこの作品に見られます。即ち、テーマ、設定、技法の三位一体となった関係性です。時として「技法・設定・脚本」という言い方をすることもありますがまあ同じ意味です。
物語のテーマあるいはコンセプトがあってそのための設定があり、それを描くための最も効果的な技法があり、その技法ならではの脚本があり、その筋立てはテーマや設定にぴったりフィットしており、脚本はその技法で描くからこそ効果的であり・・以下ループ、と、そういう案配です。

狭い棺桶だけを舞台にして描く技法は外の世界や犯人を直接描かないことによってさらに孤独感や本作のテーマ部分を浮き彫りにし、そのテーマにおいてこのシチュエーションこそが最も効果的であり、そのシチュエーションの上に成り立つ筋立てがこの設定によって際立つ、と、そういうことです。どの要素も重要で意味と必然性があるってことです。つまりすごく完成度が高いということですね。

さて、シチュエーション・スリラーとしての完成度の高さと、ドラマとしてのテーマの深みが両立している逸品であるという結論で、この先はオマケですが、私がとても感心したのはこの作品の根本的な設定に関するあることがらです。
それは携帯電話です。

携帯電話が普及して以来、映画、特にスリラーやサスペンスを作る人たちは大変な重荷を背負うことになりました。
映画的に、携帯電話が邪魔なのです。
誰もが個人で携帯を所持しているので、いろんな危機的シーンを構築し難くなるのですね。拉致、誘拐、追跡、伝達、居場所不明、複数箇所の主人公たちの行動、いろんな想定において、携帯さえあれば解決しそうな事柄が多いのです。つまり物語を作りにくくさせてるんですね。
そのため、昨今のドキドキ映画では必ず「圏外だ」「電池がなくなった」「壊れた」「どこかに置いてきた」という、携帯電話を使用できなくなるという脚本上の言い訳を表現しなければならなくなってしまいました。

限られた尺の中で、これを入れなければならないとはさぞかし辛いことでしょう。
私はこの「携帯使用不可の言い訳シーン」が気になって気になって仕方がないし、映画を作る人たちもそれは自覚していると思っています。「言い訳シーン」をすごく恥ずかしそうに挿入している作品も最近は目立ちます。「すいませんお客さん、野暮ですけど携帯使用不可の説明的シーン入れないわけにいかないんですよ、わかってくださいよ」と言われてるようです。わかります。わかりますよ。
それを避けるには、舞台を携帯普及前の時代に設定したり、逆に居直って携帯を中心にした物語を作ってしまうしかありません。

「リミット」は携帯を中心に物語を作った居直り系作品として群を抜いています。電池も切れそうでなかなか切れません。普通のスリラーだったら途中で電池切れます。このじらし感とてもいいです。ここまで徹底したら快挙というしかありません。お見事。

と、まあそんなわけで「リミット」は面白いです。時々こういう作品に出会えるから映画はやめられません。

スペインのサスペンスやホラーをいくつか観て感じることは、そのどれもが既存のジャンルや既知の効果から逸脱したり複合的なテーマで物語を作ったりしていることです。特に実験的なことをやってるわけでもない娯楽作品の中に娯楽要素としての複合観念を感じたりして、これが面白いんです。

監督は新鋭ロドリゴ・コルテス。二作目という話ですが一作目は日本には来ていない模様。またまた先が楽しみな才能の出現ですね。「リミット」はサンダンス映画祭にて公開され高評価を得ました。
アイデアと脚本の妙技を堪能できます。サスペンス好きにはお勧めします。

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