世界侵略:ロサンゼルス決戦

Battle: Los Angeles
世界中に来襲した宇宙人があれよあれよという間に各都市を制圧。ロサンゼルスもやられそう。軍人たちがロサンゼルスを奪回しようとがんばります。
世界侵略:ロサンゼルス決戦

監督のジョナサン・リーベスマンはヨハネスブルグ生まれのホラー監督。
黒の怨」「テキサス・チェーンソー ビギニング」「実験室KR-13」など、普通っぽいけど[1. 追記註:これ書いたときは「テキサス・チェーンソー・ビギニング」をまだ観てなくて、勝手に「普通っぽい」などと舐めたことを書いています。謹んで訂正します。「テキサス・チェーンソー・ビギニング」よくできてました。]よく見たらちょっと個性的な独特の演出力を持つ監督です。

そんな彼がエイリアンとの侵略戦争を描くB級仕立ての「世界侵略:ロサンゼルス決戦」を監督すると聞いて、へぇどんなふうにするんだろ、と興味津々、トレイラー映像がなかなかかっこよくて注目していたら公開が震災の影響で伸び伸びになってあまり騒がれないまま地味に終わってて、気づいたら早速DVDになっていました。
で、観ました。
わーわー言いながら観ました。
やったぜノンストップ市街戦。どどどどどと怒濤のような戦争映画です。「世界侵略:ロサンゼルス決戦」の個性は、息つく間もない徹底的な戦闘です。もうほとんど戦闘以外なにもありません。戦争映画のクライマックス戦場部分を引き延ばして2時間ノンストップで描ききるみたいな、何とも潔い作りになっております。

で、はぁはぁぜぃぜぃ言いながら見終わって、あー面白かったー、と一息ついた後に「はてこの映画はいったい何だったんだ」と思わないではおれません。
面白かった出来事に屁理屈をこね始めるとき、悪い妖怪ヒョウロンカが憑依し始めます。
妖怪ヒョウロンカに憑依されながら必死にもがいて振りほどき、俺でさえこうなのだから世間の似非評論家どもは魂をヒョウロンカに乗っ取られてしまっているに違いないぞ、と早速検索して確認してみますと、出るわ出るわ素人評論家の判で押したような批評の嵐。

曰く「戦意高揚映画である」曰く「軍隊礼賛である」曰く「独自性がない」曰く「既存映画の継ぎ接ぎである」曰く「ドラマが陳腐である」「曰く「エイリアンに説得力がない」曰く「宇宙人が最初は怖いのに後半弱すぎる」曰く「大ボス退治が簡単すぎる」曰く「つまらない感傷である」曰く「批判精神がない」曰く「深みがない」などなど・・・。
何が「独自性がない」だ。おまえらの評論のほうがよほど類型的で無個性で飽き飽きした既存の言葉でただ貶してるだけではないか。

「世界侵略:ロサンゼルス決戦」のような映画は、プロから自称まで、たくさんの評論家や評論家もどきを寄せて集めて批判させるという効果を持っています。
言わば評論家ホイホイです。

恐るべきことに、上記の判で押したような批評が「世界侵略:ロサンゼルス決戦」にはすべて正しく当てはまるのです。つまりこういう評論家目線で見る限り、この映画はたいした映画ではないということが白日の下にさらされてしまうのであります。さすが評論家ホイホイ。しかしこれは困った!面白いのに。

エイリアンの世界侵略ですが、映画の内容はロスの局地戦です。登場するのは末端の軍人たち、この末端軍人たちの仕事っぷりに注力して描きますから、これは言ってみれば「はたらくおじさん:海兵隊編」です。末端の労働者としての軍人、職業としての戦いです。
演出はリアルさにこだわったドキュメント風映像。カメラが揺れたりするあれです。ここで「ハート・ロッカー」の名を出すことには若干の躊躇もありますが仕方ありません。ええいくそ言ってやれ。まさに「ハート・ロッカー」です。現場目線の戦争でございます。

最初のエイリアン襲来はテレビ画面越しに示されます。
面白いことに、テレビ洗脳世代の人間にとって、リアルな映像よりもテレビ画面越しの映像のほうにリアルを感じるのですね。
矢継ぎ早な序盤の展開は優れたCG処理とともに見応えたっぷりです。
気づくかどうか絶妙なところでアメリカ帝国主義批判もちゃっかり行っています。
ここで「スターシップ・トゥルーパーズ」の名を出すことには若干の躊躇もありますが仕方ありません。末端軍人のハリキリっぷりといい現場労働的戦闘といい帝国主義批判といい、それでいてちゃんと末端人間に感情移入もさせてそれなりに盛り上げることといい、わりと何から何まで「スターシップ・トゥルーパーズ」を彷彿とさせます。
「スターシップ・トゥルーパーズ」では露骨な批判表現が「世界侵略:ロサンゼルス決戦」では希薄というか僅かにしか取り入れられていません。大きな声でアメリカやアメリカ軍を皮肉ったり茶化すことが不可能な映画だからかもしれません。あるいは作った人が批判的な映画にはしたくなかったのかもしれません。

こういうところもヒョウロンカが批判するポイントです。批判的パロディとしての「スターシップ・トゥルーパーズ」との比較をどう行うべきか「世界侵略:ロサンゼルス決戦」では判断しかねるからです。
軍人たちの臭いドラマをスターシップ的に見るべきなのか、素直に臭いドラマとして見るべきなのか、どちらが正解かわかりませんがどちらの立場に立ったとしてもその表現が中途半端であると批判されることになります。
だからこそ私は評価しておるのです。
飯も食わずに再出撃するハリキリ軍人たちのシーンに観客は「飯ぐらい食えーっ」と心で叫びツッコミを行います。明らかに監督は客のツッコミをコントロールしております。しかしその根っこが批判的パロディなのか臭いドラマなのかは明確にしません。実に奥ゆかしい演出じゃありませんか。

肝心のノンストップ戦闘シーンはこれは素直にすごいです。
かつて映画であったでしょうか。全編ほとんどただ戦っているだけです。得意のホラー演出も織り交ぜながら、全く飽きのこない戦闘がただただ続きます。アッパレです。思い切った映画だと思います。ここは大きな個性で、ちっとも「独自性がない」とは思いません。
そりゃ、最後のほうの大ボス退治は簡単すぎるし安直ですが、あれくらいは仕方ありません。Powerbookで宇宙人のコンピュータにウィルスソフトを送りつけるってほど馬鹿馬鹿しいオチではありません。
途中までリアルなドキュメンタリー仕立て、次にホラー仕立て、次に厳しい現場労働、最後はハチャメチャ仕立てです。

主演のアーロン・エッカートには実は気づきませんでした。ニタニタして饒舌でスーツを着ているようなイメージしかなかったものですから。こんな妙な役もやるんですねえ。

ミッシェル・ロドリゲスが出てきてみんなヒャッホーです。「マチェーテ」の時ほどの魅力は出ていませんがそれでも存在感は完璧。かっこいいですよね、この人は。

民間人役のマイケル・ペーニャが泣かせます。メキシコ顔のしぶいやつ。いろんな映画によく出ておられますね。

というわけで評論家ホイホイでちまたの屁理屈君が文句ばかり言っている「世界侵略:ロサンゼルス決戦」でした。私はこれ好きです。

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