アギーレ/神の怒り

Aguirre, der Zorn Gottes
ヴェルナー・ヘルツォーク作品、最近HDリマスターで再発されたりして盛り上がっております。こちらは1972年の「アギーレ/神の怒り」です。伝説の地を求めてアマゾン奥地に向かう分遣隊、彼らが向かうところはどこなのか。
アギーレ/神の怒り

映画が好きなものでこうやって感想文のブログなんぞ書いていると、まるでたくさん映画を見ているように見えるそうで、観ていて当然でしょう!っていう基本的なのを観ていなかったりしたら「えーっ観てないのーっまさかーっ」って驚かれたりして、その直後小馬鹿にされたりします。いえいえ、そんな何でもかんでも観てませんって。
ヘルツォーク作品なんかもそのひとつです。若い頃から「ノスフェラトゥ」信者なものですから、古い友人なら当然ヘルツォーク作品は全部観てるはずと思ってたりしていたそうですが残念でした。「ノスフェラトゥ」しか観てません。他の作品は全部最近初見なんです。ざまーみろイエーイ。

というわけでヘルツォーク作品、最近になってHDリマスター再発で活気づいています。
「アギーレ」もアマゾンを下る物語ですがAmazonであほみたいな高値が付いてたりしました。でも再発で新しく安くなって出・・・と思ったら安くないじゃん。BOX商法じゃん。
買うと高いが実はレンタルでバラが出回っています。これ意外でした。バラで安かったら買うのに、レンタルで済まされてしまいますよ、iTSにも置いてないですけど、いいんですか?>メーカーさま

くだらない前置きはいいとして、「アギーレ/神の怒り」です。クラウス・キンスキーがまた変な役で出ています。
昔流行ったモンド映画ってわけじゃないですが、モンド映画さながら、アマゾンの奥地へと筏が進みます。
目的地は伝説の地エルドラド。

エルドラドっていうのは、アンデスの地方に伝わる黄金郷です。昔のひとはやたら黄金黄金言うとりまして、どこか伝説の地へ行けば黄金だらけの国を制覇できるという夢を持って冒険隊を送り出しておりました。

実際にはアマゾン川をどんだけ下ろうがエルドラドはありません。ジャングルがあるだけです。で、この映画では到達不可能な目的を持って旅をしているという事になります。これがすごく絶望的なんです。
進めば進むほど戻れなくなります。
旅の人達はエルドラドを目指していますが、そんなもの見つかるわけがないということも何となく承知していますし、進んでいった先にあるものが絶望でしかないことにもうすうす感づいています。

最初は文句ばっかり言ってるケチな男クラウス・キンスキー演じるところのアギーレですが、この絶望への旅の中で、どんどんキラキラ輝いてきます。キラキラ輝き、頭角を現し、怪物となっていきます。
絶望状況こそが彼の求める世界です。
そうです。「サクリファイス」のアレクサンデルや「メランコリア」のジャスティンと似たタイプです。平穏な世界は彼にとって居心地が悪く、異常世界や絶望こそが安住の地なわけです。
ジャングルの奥へ奥へと進む中で支配者になっていくアギーレの描写というか演技は圧巻です。映画を見ている我々にさえ影響を与える怖い男をたっぷり堪能してください。

ジャングルの奥地へと進む中で狂気をはらんでいくと言えば「地獄の黙示録」です。「地獄の黙示録」と「アギーレ」の共通点はたくさんありますね。たくさんありすぎるので各自堪能してください。

映画の冒頭では、何やら攻略不可能とさえ思えるような山を、一行がぞろぞろと進んでいく映像です。
この冒頭、これすんごいです。このシーン、もうこれだけであらゆる絶望を表現できています。こんな旅あかんやろ、と初っ端から胸が苦しくなります。
映像的にも素晴らしくて、よくこんなロケーションで撮ったなと思います。今だったら全部CGでやるでしょう。

全編を貫くその映像は独特です。単に美しいっていうんじゃなく、ドキュメンタリー映画タッチのような生々しさとセットになっていて、これがヘルツォーク作品のユニークさを特徴付けているように思えます。
後にヘルツォークがドキュメンタリー映画をたくさん撮るようになったのもわかります。
そういえば最近作の「世界最古の洞窟壁画 忘れられた夢の記憶」も山深い洞窟が舞台なので、ちょっと「アギーレ」と似た感じもなくはないです。あれを観たときも、洞窟がある山の攻略不可能的圧迫感を強く感じたものです。

ずっと「ノスフェラトゥ」しか知らなかった私が最も心を鷲掴みされたシーンはもちろんみなさまと同じく教会前広場の絶望狂騒パーティのあのシーンです。世紀末絵画のような、現代舞踏の舞台のような、白夜の発狂パーティのような、絶望のあまり躁状態と化す人々の無音の喧噪を描くあの歴史的シーン、あの感じは他に何と形容すればいいのでしょうね。
あのシーンと全く同じ印象を「アギーレ/神の怒り」でも感じ取れます。アマゾン川を筏で下る話なのに、白夜の発狂躁状態と同じような雰囲気が味わえるとは思ってもいませんでした。
映画の後半、あらゆる災いを体現する筏にいる人間たちの姿を、カメラがちょっと遠目から眺め回します。
あの筏は舞台です。でも客席はありません。ぐるぐるとカメラが舞台上を狙い、その上で倒れた人や嬉々とした人を映し出す映像には度肝を抜かれ、心臓が高鳴り、絶望のなかの美しさに圧倒されることでしょう。

ヘルツォーク素人がこうして驚いて感動していますが、もしかしたらこうした演出はこの監督の一大特徴なんですか?知りません。

さて、クラウス・キンスキーの狂気の行方を描きますが、他に気になる人も出演しています。女優さんもそうですがそれよりなにより一番びっくりしたのがウルスア役のルイ・グエッラです。
この男前さん、どこの二枚目俳優かと思ったら「エレンディラ」の監督ルイ・グエッラではありませんか。ちょっとちょっと、あんたこんなところで何やってんの。
ちょろっと調べてみる限り、ルイ・グエッラが俳優と出演していて日本で紹介されているのはこの「アギーレ/神の怒り」のみです(出演作自体は9作くらいあるようです)
そもそも監督作品もほとんど日本に入ってきてないし、どうなってんすか。ていうか、ルイ・グエッラがここにいたという、そのことだけでも何か凄いです。

そういうわけで、ありがとうHDリマスター。「アギーレ/神の怒り」をやっと観ることができました。
呻ります。

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