サーティーン みんなのしあわせ

La comunidad
不動産屋のセールスをしているおばちゃんが、ひょんなことから物件の一室で凄いものを手に入れ、それを巡ってアパートの住人との攻防が始まります。ブラックでコミカル、2000年「La Comunidat」(コミュニティ)というタイトルの傑作。
サーティーン みんなのしあわせ

アレックス・デ・ラ・イグレシア強化週間、前回「800発の銃弾」からまた少し遡り2000年の「みんなのしあわせ」です。DVD(ビデオ)のタイトルは「13(サーティーン)みんなのしあわせ」という、何だか意味のわからないものになっています。
元のタイトルは「コミュニティ」で、それを捻って「みんなのしあわせ」という邦題にしたのはセンスいいと思います。それがなぜ「13サーティーン」になったのかは永遠の謎です。この邦題のせいで素通りさせて逃した潜在客(わしじゃわしじゃ)は計り知れないほどいることでしょう。

主人公は中年の女性ジュリアです。昔の草笛光子に似てるような似てないようなカルメン・マウラが主演を頑張ります。ええほんとにもう、めちゃ頑張ります。中年に差し掛かる女性が奮闘して頑張り、しかも最後のほうなんかは・・おっと最後のほうについては言及避けますが、とにかく中年に差し掛かる女性がこのような映画でこのような役でこのような演技をこなすのは、もうそれだけで相当ユニーク、ものすごく価値ある一品であります。

冒頭はホラーかスリラーのようなスタートです。不穏なアパートが映り、猫が歩きます。暗いじめじめした部屋で猫と共に映し出されるのは・・・!
そしていつものように超カッコいいオープニングムービーはサイコホラーかミステリーのような洒落た作りです。
主人公女性ジュリアがおんぼろアパートに客を案内しているシーンへと移り、物語がはじまります。

と、まあ映画の序盤はこのような感じです。事件です。スリラーテイストで、怖い映画かもしれない、なんて思わせる作りです。

ジュリアは不動産の分譲アパートのセールスをやっています。その中の一件が気に入ってしまい、勝手に中に入って料理したり泊まったりします。そして水漏れ事故を発端に、上の階の事件が発覚するんですね。警察とか来て大騒ぎになります。
アパートの他の住民もわらわら出てきます。
上の部屋はゴミ屋敷状態になっていて、老人の孤独死の裏には何か曰くありげな様子です。
ジュリアは偶然拾った老人のメモを頼りに、こっそり忍び込んでとんでもないものを発見して手に入れます。

ストーリーはこの後、アパートの住民たちのコミュニティとおばちゃんジュリアの攻防からバトルへと発展するぶっ飛び物語となっていきます。
スリラーテイストはどこかへ消し飛び、ドタバタコメディの形相も帯びてきます。でも気を抜いているとギョッとするサスペンスにも出会えたりして盛り沢山。

思わぬ大金を手に入れそれが元でしっちゃかめっちゃかになっていくというストーリーは多くの創作者が挑む定番と言えるお題でもあります。映画でもたくさんあります。コーエン兄弟の「ファーゴ」とかサム・ライミの「シンプル・プラン」とかそのほかにもいろいろあるでしょう。大抵、こうしたお話ってとても面白いです。作り手の気合いも入っていて、物語への挑戦であり工夫の産物です。

「みんなのしあわせ」では、他の大金を巡ってのドタバタや転がるようなストーリーテリングとはちょっと違ったアプローチを取っています。そういう話になるのかなと思わせておいて、違う要素をメインに据えているんですね。そうです。タイトルにもなっている「コミュニティ」です。

裏読み深読みを好む人ならこう思うでしょう。
アパート住民たちのコミュニティは、これはもちろん共産主義国・社会主義国を暗喩している。
したがって財産の独占を許さず、分配を良しとしており、コミュニティに対する責任と義務を負っている。
しかし実態は、リーダーであるべきものは守銭奴の独裁者であり、分配する振りをしながら自分だけ得をするよう画策している。
同時にコミュニティのそれぞれも、共産を掲げながら実際のところ自分が得をすることだけ考えている。
対して主人公は資本主義を暗喩している。対面を取り繕うことなく、正直に守銭奴であり、自分さえ得をすれば他はどうなっても良いということを隠しもしない。
社会主義だろうと共産主義だろうと資本主義だろうと皆同じことだ。

まあそれも合ってると思うんですが、それを言いたいがための映画なんかでは決してありません。それは言いたいことなのではなく、ストーリーテリング上のネタの一つに過ぎませんし、むしろこのようなテーマ性自体を茶化しているようにさえ感じられます。

この2000年の「みんなのしあわせ」には、後の「気狂いピエロの決闘」へと続くテイストが実に多く見られます。
社会的なテーマに対する取り組みとその茶化し具合なんかもそうですね。
ホラーテイストを含ませたり、後半に意外なアクション展開するところなんかもそっくりです。そのアクションの内容自体も似ています。
それから、主人公たちがわりとろくでなしで、一般的な意味での道徳心や正義感など全く持ち合わせていないという点も共通する特徴です。「800発の銃弾」もそのような人達の活躍を描いていました。道徳正義優良ぼっちゃん育ちはあっちいけしっしっって感じがたいへん共感を覚えます。
「気狂いピエロの決闘」の感想で、この監督に詳しい人達が「今までの彼の映画の要素を全て含んだ集大成」と表現したのもうなずけます。

ビデオ化・DVD化のときに「13(さーてぃーん)」という変な言葉をくっつけたのは、多分アパート住民の数なんでしょうか?数えてないのでわかりませんがそうかもしれません。
そして、それをタイトルにつけたくなるほど、アパート住民たちの個性と魅力がたっぷりと詰まっています。
集中してこの監督作品を観ている個人的事情によりますが、他作品と共通する役者さんにたくさん出会えてそういうところも楽しく感じるところです。
イグレシア作品だけでなく、ペドロ・アルモドバル関連や、こないだ紹介した「屋根裏部屋のマリアたち」に出演しているあの人もいます。
そういえば、イグレシアの初長編で出世作の「ハイル・ミュタンテ!/電撃XX作戦」(Accion mutante 1993年)の出資関係でアルモドバルが絡んでいるそうです。

主演のカルメン・マウラはこの映画の二年後、個人的事情ではこの前に見た「マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾」での資本家のお母さん役の人ですもんね。「みんなのしあわせ」のぶっ飛び演技と比較してとても面白いです。首を括られて吊されているあのおじさんもいます。他にもあの人この人お馴染みの人達が奮闘します。

主人公が中年に差し掛かる女性で、欲深くワルであるって設定にはほんとに喝采を送りたいです。
映画の後半、もう一人出てくるおばあちゃんと言っていい女性とのバトルはもう目を見はる出来映え。強欲ばばあ対強欲おばはんの一騎打ちは映画史上に残る名シーンです。このシーンでは思わずひゃっほーと声が出る最高の映像を目撃するでしょう。
「あんたの強欲は私たちと同じだ。認めなさい」みたいな印象に残る名台詞もあります。

そして、この映画を嫌う人と喝采を送る人が真っ二つに分かれるんだろうなと思える人を食ったようなご機嫌なエンディングを迎えて、もちろんMovieBoo的には大絶賛を惜しまず、こんな傑作を10年以上も全く知らずに過ごしていたことを恥じ入りながらも複雑に思う次第であります。「気狂いピエロの決闘」を観た後の今観ることによる面白さも格別だからです。

 

というわけで「気狂いピエロの決闘」のあまりの大傑作ぶりにイグレシア作品強化月間で集中してみました。一旦ここで強化月間は閉じておきます。

初期作品は観たいのですが手に入れるのが難しそうです。「どつかれてアンダルシア(仮)」が若干プレミア価格で売っていますがプレミア価格むかつきますからね。でも手に入れたい「どつかれてアンダルシア」観たい観たい。

アレックス・デ・ラ・イグレシアの最新作は2013年9月にロードショー。
よし。あと3ヶ月でスペイン語をマスターして9月にスペインまで観に行くとするか(無理無理)

超絶観たい最新作「Las brujas de Zugarramurdi」の予告編で「観たい観たい」とみんな騒いで配給会社を動かしましょう。
これを読んでる配給会社さんはさっそく買い付けをお願いします。La chispa de la vida (2011)もお願い。

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