東ベルリンから来た女

Barbara
東ベルリンから来た女
公開年:
2012
製作国:
監督:
製作:
脚本:
撮影:
音楽:
  • シュテファン・ヴィル
編集:
主演:
出演:

社会主義時代の東ドイツを舞台にした訳あり女性の映画。辺境の地に左遷された女医バーバラは堅く口を閉ざし心を開かぬ女性です。西側への出国申請が却下され監視下に置かれているのです。

東ベルリンから来た女

1980年の東ドイツが舞台です。
東ベルリンの立派な病院からド田舎の病院に左遷されてきたらしい女医バーバラは猜疑心や怒りやその他のネガティブな感情に満ちていて同僚に対してもつんつんしたいやな女みたいなそんな設定で映画が始まります。
対して迎える側の病院にいる医師アンドレはめちゃやさしい顔した優しそうな人で、バーバラを気に入ってかいろいろ世話を焼いたり好かれようとしたりします。

バーバラの事情、アンドレの事情、草むらに隠れていて具合が悪くなった少女ステラの事情、秘密警察みたいな感じのむかつく役人と監視、そういったものが田舎の病院近辺を中心に描かれます。

でね、また邦題の話ですが、「東ベルリンから来た女」なんていうタイトルですから、てっきり東ベルリンから西ベルリンへやってきた人の話かと思ってたんですがぜんぜん違いました。東ベルリンからさらにどこか田舎に来た女です。
原題は「Barbara」つまり主人公女性の名前ですね。そういうシンプルなタイトルです。
邦題としては単に「バーバラ」あるいは「バルバラ」でもよかったのにななんて思いますがそれではあまりにも何の映画かわかりませんか。

でね、この映画を観たらはっきりわかります。たしかに東ドイツの情勢を中心に据えた作品ではあります。でもそれは常に間接的にあるいはベースに横たわるバックグラウンドとして描いているのでして、あくまでバーバラという女性を通して社会を描いているのであり、そんでもってこのバーバラのドラマってのがですね、まあ愛の物語でもあるのですがそれより何より「職業を持つ女性の物語」ですよ。この部分がどどーんと貫かれています。
これは仕事あるいは職業人の物語です。「はたらくおじさん:女医編」です。おじさんじゃありませんけど。
ストーリーの核として医者という職業にまつわる話です。「東ベルリンからなんちゃらした女」とか、そういう言葉から想起されるお話とはちょっとイメージ違うんですよね。

というわけで完璧な邦題はこれしかありません。
「女医バーバラ」
どうです?めちゃいいタイトルでしょ。観たくなるでしょ。「女医バーバラ」うん。

アホな話は置いといて、で、このポスターのスチール写真です。DVDのパッケージにもなってますか。日本版はちょっと加工していますかね、この写真、いいですよねえ。とてもいい写真です。
東ベルリンから来た女 [DVD]
いわゆる「ジャケ買い」です。このスチール写真に惹かれて「これ観たい!」と思ったのです。ポスターやパッケージも大切ですね。
我が家の奥様も最後まで邦題を覚える気はなく「何観る?」「自転車に乗った人の」「あ、自転車のね、観よ観よ」というそんな会話で見始めました。

クリスティアン・ペツォールト監督の作品は日本では他に紹介されていないようですが、他の作品のポスターもいい感じで観たくなるタイプです。「東ベルリンから来た女」が話題作となったので、ぜひ他の作品もリリースたのみます。
Christian Petzold work

さて内容ですが、舞台は東ドイツの田舎の病院です。
近くに海があります。森もあります。道もあります。そりゃ道ぐらいありますわな。
街と言える街は映らず、ちょっと離れたところにあるというカフェは映りますが、海辺の田舎にある誰かの家の一角をお店風にしているだけみたいな、そんなお店です。街はないといっていいでしょう。

この田舎がですね、凄くいいんです。素敵なポスター写真の通り、バーバラは自転車でこの田舎を走りますが、ただ自転車に乗っているだけのシーンでもたいへん美しいです。
この場所で暮らして自転車に乗って職場に通いたくなります(一週間ぐらいなら)

社会主義時代の東ドイツを描いた作品ではあります。話の中にも、西側の男が「君のために東に住んでもいい」といいますが「アホなこというな。こんなところで暮らせるかボケ」と、いや、こんな汚い言葉ではありませんが一瞬で却下されます。こんな国とてもまともに住めないよ、というわけですが、でもこの映画「女医バーバラ」(違)はですね、「東ドイツは最悪だった、あの頃は酷かった、今は素晴らしいよね」とだけ言っている映画でしょうか。
もちろん違いますよね。
東ドイツは確かに政治的には悪かった、秘密警察とか監視とか最悪ですし、言論や文化の方面でも雁字搦めだったことでしょうし、いいことなんかなかったかもしれません。

でもね、そこに暮らしているひと、そこにある仕事、そこにある景色、採れたての野菜、建物の剥がれ落ちた壁さえも、愛着を持って見ることになります。
社会が酷くてもひとりひとりの人間はそれほど悪くないのです。悪いやつもいるけど。
土地への愛着でもいいし、人への愛情でもいいし、職業に対する責任感でもいいんですが、そういうポジティブなことと社会が最悪であるというネガティブなことは当然ながら両立します。

社会が最悪だったら逃げればいい。それは当然です。ですが逃げない人もいます。逃げられない人もいます。逃げるのが一番ですがそうしないあるいはできないということだってあります。事情はそれぞれですから遠くから他人がやいのやいの言うことは出来ません。猛毒汚染地帯であってさえ我が子が病気になってもいいから住み続けるのだと思う人だってたくさんいるんです。そういう人達を批判することなどできません。他人がやれることは壁を崩壊させる手助けをすることぐらいです。

そういえば80年代の後半っていうのはいったい世界に何があったのか。ベルリンの壁が崩壊したニュース映像を観ながら、はて夢を見ているのかと思いました。その直前、日本では天皇崩御があり、そのまた直前にはチェルノブイリ事故が起きて数年後にはソ連が崩壊するほどのインパクトでした。激動過ぎて今あの頃を思い出しても不思議な感覚です。身の回りでは多忙とかバブルとかヤバい系のいろいろなどが蔓延してたのでそのせいで記憶中枢がイカレているのかもしれません。個人的などうでもいい話ですけど。

ちょっとネタバレ系細部でも。

お医者アンドレはとてもよい人で絵に描いたような優しい人です。で、このお医者ったらお茶目でして、小説を読むのが好きらしくて、持ってる小説が全部お医者の物語という。よいお医者のいい話なんかが大好きで、その影響で自分もいい人になったんでしょうね。そういう設定です。この設定が可愛いやらおかしいやら。

不憫系に弱い私としましては、あるホテルである女性と会うシーンなんか結構ぐっときました。
西側の誰かさんにアクセサリー買ってやるとかいわれて、安っぽい雑誌の安っぽい羅列広告を見ながら凄く楽しそうにわくわくしてるんですよ。「これ可愛いこれ素敵」とか。やめてください。私は不憫系で泣きますんで。

自転車がパンクして歩くシーンがあります。めちゃ歩くんですよ。到着したら明け方です。
軽快そうに自転車に乗っていますが、やっぱりド田舎、病院までは相当遠いのでしょうね。

少女たちが労働させられていて飛行機の音がするあのシーンもとてもいいです。美しさと気味悪さが同居した素晴らしい映像でした。

寝ていないバーバラに優しくコーヒーを持ってくるアンドレ。でもバーバラは過労すぎてカップを落とします。
このシーン、気づいてしまいましたがカップにコーヒー入ってないですよ。コーヒーこぼれてないです。重箱の隅つついてもしょうがないですけど。このシーンのおかげで、次にコーヒーが出てくるシーンでも中身が入っているのかどうか気になってしまいました。多分、二度目も入ってないですよあれは。いえ、文句いってるんじゃなくて。むしろ劇っぽくていいと思います。

てな感じで役者さんでも。

バーバラを演じた女優さんですがニーナ・ホスです。Movie Booで書き覚えのある字面。しかも顔も見たことあります。とても美女で背筋が伸びていてちょっと特徴的な口元。
なんと「ブラッディ・パーティ」で吸血鬼を演じたあの人でした。おー。いえー。
Nina Hoss
ドイツ緑の党の共同創設者のひとり、ウィリ・ホスの娘さんで、ドイツの国民的女優です。受賞歴もたっぷり。で、社会派です。女児割礼、貧困、熱帯雨林住民の生活改善などに取り組んでおられます。

煙草を吸う姿がとってもカッコいい、いい女って感じです。

もうひとり見覚えがある人がいます。不気味な役人です。「白いリボン」でお医者役をやっていたライナー・ボック。「戦火の馬」とか「アンノウン」とか、ハリウッドの大手作品にもいくつか出ています。

いい男アンドレは、もうこういう役柄にはこういう顔の人しかないでしょう、っていうそんなぴったりフィットのロナルト・ツェアフェルトという俳優ですが、よく見かける顔と思っていたけど初めて見た人でした。

というわけで「女医バーバラ」・・じゃなくて「東ベルリンから来た女」、印象に残るとてもいい映画でした。

2012年ベルリン国際映画祭 銀熊賞(監督賞)受賞
2013年アカデミー賞外国語映画賞ドイツ代表作

この手の映画の予告編ってネタバレ食らわないから言葉がわからないくらいのがちょうどよかったりします。

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「東ベルリンから来た女」への2件のフィードバック

  1. 心に浸み入る いい映画でしたね。ヨーロッパ映画ならではの大人の味でした。
    いくら環境が悪くても自分にできる精一杯のことをする、そんなアンドレの姿に
    彼女も心を開く気になったんでしょうね。
    この邦題を考えた人、ちゃんと作品に向き合って観たんでしょうか?

  2. Kenさんどもです。これ、とてもいい映画でした。アンドレいい人でした。森や建物も美しかったです。
    邦題、怒りを感じるようなのではないですがちょっとイメージ違いますよねえ。やっぱ「女医バルバラ」(違)

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