フレンチアルプスで起きたこと

Turist
美しいアルプスのリゾート地でバカンスの家族。ある父親の行動が妻の不信を生み、不審に弁明する言葉がさらなる不穏を呼び、夫婦の亀裂が他の家族にも影響を及ぼし、やがて楽しいバカンスが辛く気まずい状況に雪崩れていきます。絶妙な会話の応酬と映画構成の美学、ニュータイプシニカルファミリードラマ、リューベン・オストルンド監督「フレンチアルプスで起きたこと」の壮絶は奇跡か天才か。
フレンチアルプスで起きたこと

ノーチェックで全然知らなかった傑作映画がたまにありますがこれもそうです。2015年夏に日本でも公開されたリューベン・オストルンド監督2014年の「フレンチアルプスで起きたこと」の壮絶な面白さはインテリ系コメディのシニカルさを根っこに持つニュータイプ家族のドラマで、会話・脚本の妙技と間と空気感の優れたドラマが観る者をおののかせます。

2014年カンヌ国際映画祭で話題となり英米でも受けがよく各種映画賞に速攻ノミネートされ多数の受賞を果たしました。

予告編や事前情報を避けているとこういう面白い映画に気づかなかったりするので善し悪しですね。この映画に関しては予告編の編集も良く出来ていてうっかり見てもOK、むしろオススメできます。映画の面白さを端的に示していると思います。今日は珍しくいきなり予告編を貼ってみますね。

まさにこういう映画です。私はこの予告編を見て衝撃が走りまして「いつ公開するんだ」と慌てたら終わったばかりと知って泣いていました。でも待っていればいつか観ることが出来ます。

公開は終わったばかりでしたがそれは我が地の公開が遅かったせいで、それが功を奏し終わったばかりなのにもう間もなく作品化して発売するという。遅い上映もこういうときはありがたいものです。

それで美しいアルプスの景色をストーブの燃えた暖かい部屋でゆったり観ることができてそれはそれでまた格別です。今年2016年が始まりましたが新年元旦早々いいのばかり映画部で観ておりまして沸騰しかけています。

ここ映画感想MovieBooでは大概の映画を褒めていますがまたまた絶賛、これはかなりの作品ですね。時々こういうもの凄い映画に出会えるからやめられません。映画ばっかり観てますが時々怪物のような映画が出現することがあってそれを目撃するのは至福の時です。古い名作映画もいいですが新しい映画をどんどん観たいと思える瞬間です。

さて「フレンチアルプスで起きたこと」の特徴はニュータイプモダンな演出と映像、テンポの美学と構成力、それに加えて絶妙な会話の脚本にコミカルな人物像、と、いつ何を褒めてもこう言うしかないんですが、そのあたりとなります。

本編ストーリーの核を成す父親のお話や人間描写もとても鋭いのですが、それだけなら普通の面白い物語にすぎません。このお話をどのように表現したかが重要で、その表現技法によってお話と人間描写がさらに際立つ結果となり、つまり相乗効果で言うことなしと、こういうことですね。

リューベン・オストルンド監督はデビュー作「ザ・ギター・モンゴロイド」でモスクワ国際映画祭の受賞、2作目「インボランタリー」でカンヌある視点プレミア上映、その後の短編「インシデント・バイ・ア・バンク」でベルリン国際映画祭の受賞、その後の長編三作目「プレイ」でまたまたカンヌの受賞と、まあ、最初っからいきなり世界で大注目の凄い人であったようです。以前の作品はいずれも日本では公開されておらず、「インボランタリー」と「プレイ」はリリースされていて観ることができます。

「フレンチアルプスで起きたこと」では大きすぎる人工雪崩れにみんなが慌てふためく中、自分だけ家族を置いて逃げてしまった父親が後で恥ずかしい言い訳をし始めるあたりから夫婦の溝が深まっていきます。

「夫は逃げたんですよ」と他人の前で普通に言ってしまう妻に「そうじゃないよ」と焦りながらにこにこ答える夫。ちょっとした嫌味な夫婦の会話ですが、これがちょっとずつ尾を引き始めます。

観ているときは実は夫が逃げた話はメインのストーリーではなく単なるエピソードの一つと思っていたものですから、このひとつのつまらない話について映画がしつこく描き始める時に身をよじって面白がっていたんです。

とても微妙なところなんですが、そもそもメインのストーリーがあるという認識は最初からなくて、雪山の映像や冒頭のシーンに見られる敢えて平坦な会話の演出、カット切り替えの絶妙さなどによってドラマチックな進行よりも断片の妙技を堪能できるタイプであると認識してたんですね。ですので話もあっちこっちの断片を紡ぐような感じで、雪崩のエピソードもその一つと思い込んだわけです。

夫のカッコ悪い行動と弁明をしつこく蒸し返すこと自体に意外性があり、一息ついてはまた蒸し返すその構成に舌を巻き心の中でのたうち回って喜びます。

こうした見方はこちらの誤解によるものでもあります。でもそれだけでしょうか。そんなわけないのでして、しつこく蒸し返す意外性はやはり製作意図として組み込まれたものです。断片を紡ぐ技法であることに違いはなく、しつこく蒸し返す中で話が他のカップルに飛び火したり予想外の深刻さを増してくる ことこそがこの映画の特徴で面白いところでメインに描かれるところです。

見事な構成についてはラストシークエンスでもばっちり確認することができますね。単なる夫婦の映画ではない最強のオチがお待ちしております。

予告編でも流れますが音楽がとても効果的に使われていますね。胸騒ぎの物騒な曲です。雪のアルプスなのにその選曲は嵐の「夏」です。いいですね。

原題は「turist」ツーリストですって。シンプルですね。「フレンチアルプスで起きたこと」は原題と全然違いますがとてもいい邦題だと思いました。

ヴィヴァルディ「四季」より第2番ト短調「夏」 第三楽章  雷鳴、稲妻、霰に身をゆだねましょう。

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