ミッシング・レポート

Spinning Man
湖での少女失踪事件についての映画「ミッシング・レポート」は、現場近くで車を目撃され容疑者となった哲学教授(ガイ・ピアース)をめぐるミステリー。
ミッシング・レポート

失踪事件ミステリー

湖でバイトしている女子大生が失踪する事件が起き、事件を追う刑事と容疑者の哲学講師とその家族が地味にミステリーを紡ぐ映画です。

ミステリー映画っていうのは思いのほか少ないように思います。ミステリーだと思って見ていたら拳銃パンパン撃ったりカーチェイスしてしまったりするようなのも少なくありません。と、一般論を言ってても仕方ないですが、純粋ミステリーというだけで貴重な一本です。

でもただ犯人を捜す普通のミステリーでもなくて、ちょっと変わり種です。というのも、容疑者とされた哲学教授が主人公です。主人公が最も怪しいという、なのになかなか真相がわかりません。主人公なんだから自分が犯人かどうかぐらいわかってもよさそうなものですがそうはいきません。そこはほれ、この主人公哲学の先生ですから、哲学的屁理屈で翻弄させながらすべてをあやふやなものにしてしまいます。

このように主人公が容疑者で主人公を見ていても何だかまったく信頼できないこういうのを叙述トリックの範疇で見ても良いと思います。

映画の中の哲学

またここで一般論ですが、映画で哲学とかセリフで言わせるのは難しいものでして、どうもセリフとして哲学的な要素を絡めるともの凄く安っぽく見えたりします。そういうのたまに見かけます。いや、よく見かけます。
脚本全体の中からじわわわ〜と哲学的思考を示す良い映画も確かにありますが、ジャンル映画でこれをやって上手くいった例はほとんどないんじゃないでしょうか。

心理ミステリー

「ミッシング・レポート」では主人公が容疑者で且つ哲学の先生です。しかもちょっと心に問題あります。彼が哲学と称して語る多くが心理学や精神分析の範疇に収まります。この映画は哲学とミステリーを混ぜようとしたのかもしれませんが、出来上がったのは記憶に関する心理系ミステリーにすぎません。

とは言ってもだから駄目とはまったく思いません。ここまでだらだら引き延ばしましたが、この映画自体は面白いんですよ!哲学ミステリーではなく心理ミステリーで叙述トリック、面白くないわけないじゃないですか。

主人公は哲学的思考にハマって一般的な会話ができなくなったり、記憶というものの曖昧さのせいで己の記憶や己にとっての事実に確信が持てなくなってしまっている男です。ようは「覚えてない。たとえ覚えていてもそれが事実かどうかわからない。そもそも記憶なのか妄想なのかよくわからない」という困った状態にあります。

ガイ・ピアース

この主人公を演じたのはガイ・ピアースです。このキャスティングの妙技よ。どうしても「メメント」を連想してしまいますし、それを踏まえて最も信頼できない語り手としての「どっちなんだろう、どっちにも見える」感が完璧なんです。悪い奴にも見えるし良い奴にも見えるし、いいやつに見えて悪いこと考えてる変態っぽさもあれば悪いことを実際にやったんじゃないのかというふうにも見えるし実際にやったと思い込んでるだけの妄想君にも見えなくもないという、ゆらり揺れ揺れ、良い感じです。この揺れ揺れ感が「ミッシング・レポート」を観ている間中つきまとい、興味が失せません。こちらとしては固唾を呑んで物語の行方に注視します。

ピアース・ブロスナン

かつてジェームス・ボンドをやるまでは「ただハンサムなだけ」とか言われていた俳優でしたが、今作で久々に見たら味わいのおじさん刑事の役がすっぽりハマっていて良い感じでしたね。もう二度とだれも「ただハンサムなだけ」なんて失礼なことは言わなくなっていることでしょう。

原作

映画のセリフで哲学をやるとみっともないだけと書きましたが(そこまでは書いてないか)「ミッシング・レポート」は原作がある映画で、ジョージ・ハラ著「悩み多き哲学者の災難」というのがそれですって。てっきり短編小説だと思ってたんですがこれ長編小説なんですか。それで、原作ではさぞかし哲学についてもたっぷり満腹になるまで描いているんだろうなあと妄想していたら、どうやらこの原作小説は「皮肉とユーモアで描いた」と紹介されているように、糞真面目な哲学小説ではない模様。皮肉とユーモアというのは、たしかにこのストーリーを語る語り口として真っ当だと思います。

映画は少し深刻に描いていることもあって、そのせいで哲学のセリフが浮いてしまったんだろうなと、読みもしていないのに主人公に劣らず妄想だけで書いてますが。

映画

というような叙述トリックの技法によるミステリー「ミッシング・レポート」、最後まで実に面白く見ることが出来ました。哲学を絡めたのはちょっといまいちでしたがそんなことは些細な問題です。

あと、この映画ちょっぴり深刻っぽい技法で描きますが、実際には普通に見やすいドラマです。悪く言うとちょっと凝ったテレビシリーズみたいというか、でも良く言うと誰にも雰囲気が伝わりやすいと。いいんじゃないでしょうか。

クライマックスで変なアクションや変なサスペンス劇場みたいにせず、真っ当ミステリーとして締めくくっただけで立派なものです。あと、奥さんとの絡みもとてもドキドキして良い感じでした。そして私はこの映画のオチが好きです。なぜかというと、・・・さすがにミステリーのラストを書くわけにはいきませんて。

 

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