おとなのけんか

Carnage
おとなのけんか

戯曲を元にしたロマン・ポランスキー監督のワンシチュエーションコメディ。子供の喧嘩について話し合う二組の夫婦が喧嘩します。

おとなのけんか

あ。「おとなのけんか」がもうDVDになってる。これ観たかったのよねえ。ていうか全然知らなかったんですがFRAGILEさんが紹介しているのを読んで監督とキャストを知りひっくり返って観たい観たいと騒いでたやつですがな。で、さっそくというか、やっと観ました。

子供の喧嘩で片方が怪我をして、それぞれの両親が話し合う席を怪我をした子の家にて設けます。
最初は穏やかな嘘くさい笑顔で接していますがだんだんと本性むき出しになってくるという、そういうお話です。簡単そうな話です。舞台は話し合いの室内のみ。登場人物は二組の夫婦のみ。時間経過はほとんど省略なしのリアルタイム進行、一幕もののお芝居のような設定です。

お芝居みたいな設定なのも当然で、ヤスミナ・レザによる戯曲「大人は、かく戦えり」(Le Dieu du carnage) が元になっているということです。この戯曲を、レザとポランスキーが脚本化し、映画となりました。

これまで、室内劇というか会話劇の映画を観てですね、その脚本と役者の演技の壮絶な質の高さにびっくらこいて後で調べたら、大抵は「戯曲を元にした」てな解説に触れることになるというのが常でした。映画にとって何がいちばん大事かって、まあ、全部大事ですけどとりわけ大事なのが脚本ではないでしょうか。何となくそう思っております。

戯曲を元にしていなくても、お芝居関係の映画化や、脚本が戯曲家だったり、戯曲を強く意識した作風だったり、そうしたシナリオ重視の作品に傑作は多いです。独断ですが。大抵すぐれた脚本の映画の場合、他の部分も優れている場合が多く、脚本に負けない演技派俳優、そして細かなところにこだわりまくった演出家というのがセットになります。結果的に良い映画になるに決まってるというような、そんな案配です。

さて「おとなのけんか」のすばらしい脚本の威力は単純な設定の中で生かされまくってます。子供の喧嘩が元で大人が喧嘩するというただそれだけのお話に、これほどの意外性や面白さを出せるという、全ての脚本家や小説家やお話作りの人の教科書のような展開に注目です。

細かいところをテクニカルに分析していったら、いかにこの脚本が練りに練られているかの一端が見えてくるでしょう。たとえば、最初にハムスターの話が出ます。このとき、ハムスターを捨てた夫婦を、観客は訝しんで見ることになります。ですが、この一件を吹き飛ばす勢いで弁護士がまず悪者として認識されるよう誘導します。最初に「いやなやつ」と思わせることに成功して、ハムスターを捨てた件を観客は忘れ、怪我した子の親と弁護士の妻にまず分を感じるように仕向けるんですね。ずっと後になって、攻撃の範囲が多様化して四つ巴になってくるちょうど良い時分に再びハムスターの話を蒸し返します。とても効果的です。と、まあこんなのはほんの些細な一例で、全編こうした工夫に満ちています。たった4人の人物が、その性格や態度や、観客の感情移入度なんかも含めて、いろんな方向へ飛び交います。あのね、まじ面白いです。

そのテクニカルな脚本と俳優たちの個性がこれまた渾然一体となっています。まあなんというキャスティングの見事さでしょう。

イングロリアス・バスターズ」でもとびきりの演技を見せたクリストフ・ヴァルツは、最初とてもいやなやつです。怖いぐらい冷酷で計算高く人間味のない男に見えます。顔もそう見えます。これがどんどん変わってきます。冷酷な顔と思っていたらとても味わい深い顔だとわかってきたり、最初と最後ではまるで違う人物のように見えたりします。怖い顔から情けない顔まで、表情の戦士ですねこの人は。めちゃいいです。

乙女の祈り」で長編映画デビューのエキゾチック系美女ケイト・ウィンスレットは「愛を読むひと」でもその演技が高評価、もはや大御所です。綺麗にお化粧して綺麗な洋服を着て良識ある上品な貴婦人を演じつつゲロはいたり偽物呼ばわりされて逆上したりするとんでもない役を完璧にこなしました。すばらしい女優です。

われらがジョディ・フォスターは「ペーパームーン」の頃からお馴染み長ロング女優です。あんなにたくさん見てるのになぜかMovieBooには「告発の行方」しかポストがありませんが、この人のですね、この顔、役柄にあまりにもぴったりすぎて、本当にそっち系のそういう人に見えます。青筋立てて正義を説き、しまいにはわけがわからなくなって「そうよ私だけが世界一ただしいのよ」みたいなことまでほざいちゃいます。世界の道徳と正しきことにのめり込みながら代表的な嫌煙派のうんこのおばはんという人物設定です。ハマりすぎてて怖いほどです。すごいです。ジョディ・フォスターは。
うんこのおばはんについては「イン・マイ・スキン」を参考

温厚そうなおじさんと下品な野蛮人は両立します。そういう人物を演じきったのがジョン・C・ライリーで、この役柄もたいそう面白いし、あまりにも自然に演じきりました。男二人でシングルモルトを飲むところや葉巻を吸おうとするシーンなど最高です。ハムスターは怖くて触れなかったりします。8歳から舞台に立っていたというジョン・C・ライリーです。「マグノリア」「シン・レッド・ライン」ぐらいしか見ていませんが多作にご出演のベテラン。

というわけで次は完璧な役者を演出するロマン・ポランスキー大先生です。もはや言うことは何もありません。

とても細やかな演出です。カメラの位置とか。その写し方、演出の仕方で、人物や人物が今どのような状況に置かれているかといったことを漏らさず描ききります。

前作「ゴーストライター」にも通じる、脈々と流れる銀幕映画の雰囲気です。人物の立ち方話し方カメラの納め方カット時間、それら全てのベースに、今では懐かしいとさえ感じる「映画らしい映画」の作法が見て取れます。会話シーンなどに特に顕著、間の取り方やちょっと人を食った演出も健在、この方が巨匠と言われるにはわけがあります。いいですね。

「おとなのけんか」はアメリカで撮れないのでアメリカのふりをしながらパリで撮影されました。わずか79分の短い映画です。短いけど、おもしろさが詰まっています。

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“おとなのけんか” への 3 件のフィードバック

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