スノーピアサー

Snowpiercer
ポン・ジュノ監督がフランスの人気コミックを原作としたSF娯楽大作をハリウッドのビジネスとして作るという、まるで信用ならないこの映画、見もせずに決めてかかってはいけません。相当な面白さでポン・ジュノやっぱり天才。
スノーピアサー

ポン・ジュノは何をやってるんだ、映画作ってんのか、作ってください、と日々思っていたら何と驚くなかれハリウッド大作の監督をやるという。ちょうどこの映画の上映時期は他にダーレン・アロノフスキーが同じくハリウッド娯楽大作「ノア」を準備中という情報もあって、何とも不信感に包まれていた頃です。いい映画を作る人間をハリウッドが抜擢して巨大ビジネスの海に沈めてしまうという碌でもない現実がまず頭をよぎります。例えばこの映画をやっていたちょっと前には期待のニール・ブロムカンプが「エリジウム」とかいう実につまらない映画を作ってしまったり、実力派女優ジェニファー・ローレンスが「ハンガー・ゲーム」という若年向け映画で人気が出てしまったりしたのを目撃しておりますゆえ、注目の監督が巨大ビジネスに伸される姿をまず思い浮かべてしまうんですねえ。滅んだ近未来列車という漫画チックな設定(原作漫画ですから)を知って「はぁ?」と呆れつつ、まったく興味も持てませんでした。

しかし例えば大化けしたクリストファー・ノーランという例もありますし、ちょっとズレてジュネの「エイリアン4」という好例もあります。皆が皆ビジネスに潰されてしまうわけではありません。そもそもポン・ジュノという監督はすでに「グエムル」を作っておりまして、単なる実力派監督とは訳が違います。最初から娯楽活劇全然OKでジャンルを超えた監督なわけです。

ポン・ジュノがどれくらい天才かというと「ほえる犬は噛まない」から「殺人の追憶」から「母なる証明」から「グエムル」から、その多岐にわたる作風のどれもが抜きん出ているという紛れもない事実であります。これはかなり珍しい天才性で、言ってみればルイス・ブニュエルとスピルバーグが同一人物であったというくらいのインパクトです。ペドロ・アルモドバルとジョージ・ルーカスが同一人物であったというくらいの、まあ、もういいですか、とにかく多彩で尚且つそれぞれの作風で優れているこんな監督はそうそういません。というか他に例を知りません。べた褒めですがそうなんです。

で、うっかり興味の対象外だった「スノーピアサー」ですが、ポン・ジュノ作品に餓えているというのもあって、ちょっと遅れて観てみたんですね。そしたらね、これがね、想像以上の面白さでした。やっと感想文になってきました。

原作はフランスの有名なコミックで、これの映画化にあたってはそもそもポン・ジュノが原案出してます。つまり、ハリウッドのビジネス企画が先にあって、監督としてポン・ジュノが抜擢されただけという状況とは少し違うんです。もっと積極的なんです。これは「インポッシブル」におけるJ・A・バヨナと似たような立ち位置ですね。多分、そうなんですよね。

で、お話ですが、近未来で格差の象徴たる列車の話です。格差の上下がそのまま列車の前後に当てはまりまして、最後尾のスラムから政府転覆を試みて前へ前へと革命軍的に進んでいくお話です。話の骨子はいい話ながらありがちな漫画設定で、ストーリーの最後のほうの展開もお約束的なものになっています。ストーリーの全体像は、だから若年層向けの単純なもので、それ自体は悪くないものの、まあ大した話ではありません。それより何より超絶面白いのはとにかく細部です。各エピソードの中で登場人物の魅力とか映画的な構成の魅力というものが詰まりまくっておりまして、この部分は若年向けに収まらず、相当な面白さに満ちあふれています。狭い列車内での大活劇や、その中で突如表現されるすっとぼけた伏線と回収など、シナリオの妙技も含め映画技術が高度すぎて目眩がするほどです。

いくつか好きなシーンでいいますね、例えば拷問シーンの「黒い太陽731部隊」風のところ、それからティルダ・スウィントンの登場シーンのすべて、それからたいまつもって走ってくるあのシーン、そしてなんと言ってもソン・ガンホとその娘の絡み、スローモーションを駆使した大活劇、ひとりまたひとりとやられていく個性的な面々、いろいろあります。いろいろ良いシーンがたくさんあって、それぞれが個性的な演出でお楽しみを繰り出してくる構成の面白さも抜群なんです。アイデアの宝庫であり、これぞ娯楽映画という観客を飽きささない贅沢な作りです。私なんかが見ますと、いいシーンがあったら「この感じで一本作れるのに」と、そのように感じてしまいます。そういうのを惜しげもなくガンガン一本の映画に投入するのがこの手の娯楽活劇の凄いところです。

この稿のはじめのほうで、優れた監督による巨大資本ビジネス作品の良例としてクリストファー・ノーランとジュネの「エイリアン4」を挙げましたが、「スノーピアサー」は感じ的には「エイリアン4」に近いんですね。ポン・ジュノ作品でお馴染みの雰囲気が娯楽活劇に引けを取らず堂々と表現されます。「エイリアン4」はやっぱりジュネファンがにんまりするだけの小粒な作品という気もちょっとしますので、出来映えとしてはこちらが凌駕するように思えます。それが「グエムル」であれほどの作品を作り上げたポン・ジュノの強みなんですよきっと。もともと「こういう映画を作る人」でもあるわけです。

「スノーピアサー」は十分に面白大作ですが、単独で見たときの面白さと、ポン・ジュノ作品を踏まえて見る面白さの質の違いについて少々考える部分もなくはないです。どっちにしろ面白いのでどうでもいいのですが、これほど面白くてもやっぱり「グエムル」のほうが面白いと思ってるのもまた事実。そういえばソン・ガンホの娘役で「グエムル」のあの娘が出てきたときは思わずヒャッホーでした。

そんなわけで結論は、大手資本のビジネス大作でもおもろいものはおもろいのであるからして、見る前に勝手に判断してはいけません。

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