ともしび

Hannah
「ともしび」はアンドレア・パラオロ監督によるシャーロット・ランプリングがひたすら辛そうな日々を送る辛い映画。説明不足すぎて戸惑う人もいるかもしれませんが結構壮絶で、謎解きのネタバレ含む映画感想です。
ともしび

イタリア人監督アンドレア・パラオロ監督による辛いおんなの辛い日常を淡々と描く文芸的叙情的映画で、主演のシャーロット・ランプリングのその存在感が大フィーチャーされます。

シャーロット・ランプリングと言えば個人的には「まぼろし」が映画史上の名作と思っていますが、これに関して何だかちょっと引っかかることがございます。とてもつまらない話ですがそれはこうです。

「まぼろし」のあともいろんな映画でいい演技をされている尊敬できるシャーロット・ランプリングですが、最近「さざなみ」という一見名作映画だが実は若々しい力に溢れた夫婦のドラマ映画がありました。

この「さざなみ」のポスターアートはあきらかに「まぼろし」を意識した構図でできており、邦題の「さざなみ」も「まぼろし」を強く意識したタイトルです。「さざなみ」と「まぼろし」はまったく印象の異なる映画で、関連付ける要素はありません。主演が同じ女優というだけです。「さざなみ」の邦題とポスターに欺され「まぼろし」みたいなつもりで観に行ったら全然違う映画で腰が抜けました。それはそれで意外性があってとても良かったんですが、わざわざ「まぼろし」を意識させる邦題やポスターにする意味あったんかと少し思ってました。文句いったりするレベルじゃないですよ、ぜんぜん文句はありません。ちょっとおもっただけです。

で、今回ご紹介している「ともしび」です。この邦題も明らかに「まぼろし」「さざなみ」を踏まえています。三つ目です。三つと言えばみんな大好き三部作を連想します。何も知らなければ「まぼろし」「さざなみ」「ともしび」をシャーロット・ランプリングの年齢を重ねたおんなの三部作のように印象づけることが出来るでしょう。実際、露骨に三部作がごとくキャッチコピーを入れてるポスターアートもありました。

ちょっとやりすぎかなーと思わなくもないですがどうでもいい話でした。

「ともしび」ですが、シャーロット・ランプリングの孤独感といい辛さといい、こちら若干「まぼろし」の系統とも言えなくはない映画です。「ともしび」はどんな映画でしょう。こんな映画です。

老夫婦ですが夫が収監され妻はひとりぼっちになります。絶望を日々のルーティンで紛らわそうとしますがそうもいかなくて辛いです。

絶望をルーティンに埋没させると言えば「ニーチェの馬」を思い浮かべますね。そういや、ちょっと似たところもあるかもしれません。ないかもしれません。

アンドレア・パラオロ監督がどのような映画を撮る人か知りませんが、「ともしび」は辛い映画が服着て歩いてるような辛い映画で、説明を排して切り取るような映像を繋げるいかにもヨーロッパ映画らしい文芸的な技法をもって作られています。

「さざなみ」はめちゃおもろいドラマドラマしたドラマでしたが「ともしび」はそんなつもりで観ると慣れていない人は辛すぎてしんどくなるでしょう。

ただし単なる切り取り系じゃなく、アート映像として結構すごいです。最も印象に残るのは何つっても映り込みの映像ですね。ガラスに映る反対側の描写をこれでもかと多用します。わりとこういうテクニカルな撮影好きなんでのめり込んで見てました。

さて、説明を廃して日常を切り取るように描写するヨーロッパ映画ですが説明を廃するのもたいがいにせいやと言いたくなるほど説明がありません。

夫は警察に捕まり収監されます。理由が何であるか説明はしません。息子にめちゃ嫌われていますがその説明もありません。映画の後半にはタンスの裏から封筒が出てきてそれ見てシャーロットは傷つきますが何が出てきたか説明はありません。夫が収監されることがすべてのきっかけとなっていますから、これは犯罪絡みとわかります。犯罪となればいくら日常切り取り系のヨーロッパ文芸であったとしても、どうしてもその犯罪が何であるか、封筒は何だったのかとミステリー的に気になるのが人としての定めです。

映画を見終わってまず誰もが口走ります「そんで、何やねんこれは。なにがあったのよ。教えて知恵袋」

私も最初あまりの説明のなさに戸惑いましたが、さてみなさん。ここからネタバレいきますがさすが辛い系切り取り系ヨーロッパ文芸系、一切の説明を除いた中にヒントを散りばめまくっておりますよ。反芻することによって見えてくる「ともしび」のミステリーに気づくとその衝撃にだれもがこんな状態になります。

ネタバレを避けたい人にはどうぞここまででお願いします。老け込んだシャーロット・ランプリングの背中に悲哀を感じまくる「ともしび」でした。ではごきげんよう。

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