スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜

The Ides of March
大統領予備選にまつわる選挙事務所サスペンス。リベラルで男前の州知事に付いて予備選で勝たせようと頑張る選挙スタッフのあれこれ物語です。野望と理想を抱く若きエリートコンサルタントの仕事ぶりをドキドキドラマで展開。
スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜

ジョージ・クルーニー監督作品です。この方、もともとはジャーナリストを目指していたような方なので政治的に一家言お持ちです。でかい目玉と野性的な男前っぷりから想像するようなあほの人ではなく随分冷静でリベラルな人でして、彼の仕事に協力的な映画人たちを見ての通り業界での信頼も厚く、いい人そうなんです。
時にあまり大ヒットが期待できない政治的な映画の製作や監督もしておられて、どちらかというと私的には尊敬し支持する人なのですが、映画的には何というか残念ながらというか惜しいというかその、まあ、ちょっとアレなんです。「グッドナイト&グッドラック」とか「シリアナ」(シリアナは監督じゃないですけど)ですね、とても良い映画なのですがちょっとその、若干惜しいというか何というか、埋もれてしまう系というか、いやもう映画作りってのは難しいもんです。いつもみんな歴史に残るような名作を期待しますからねえ。

本人が固執したこだわりのタイトル「The Ides of March(3月15日)」です。これを「スーパー・チューズデー」までならなんとか百歩譲れても「〜正義を売った日〜」などという馬鹿みたいな副題までつけて、せっかくの作品を安っぽい色物サスペンスみたいな売り方する配給もどうかと思いますよね、可哀想にジョージ・クルーニー、完全に舐められています。私もちょっとだけ舐めてました。

でもちょっと面白いですよ「スーパー・チューズデー」←ちょっとかよっ

いえちょっとじゃないです。テレビのサスペンスドラマみたいです(いかん。あまり褒め言葉じゃない)
えーと。スリリングな展開と陰謀渦巻く政治サスペンスです(ますます墓穴)
面白いですよ。いやほんと。

選挙です。
選挙というのはゲームでして、戦略や駆け引きがあったりして、政治思想とは無関係なものです。もし万が一、選挙のことを純粋ピュアに民主主義の神聖な儀式と思っているような人がいたら、この映画で「へーっ。選挙運動って、こんな泥臭いものなのかー。へーっ。へーっ」ってふうにものすごく面白く観ることが出来るかもしれません。でも残念ながらそういう人は万が一にもいないでしょう。むしろこの映画を「うそくせー」と、ちょっと小馬鹿にして思う人がいるかもしれません。

原作の戯曲書いて脚本書いたボー・ウィリモンという人は実際に予備選立候補の選挙スタッフだったそうです。ですのでなかなかのリアリズム・・・・と言いたいところですが、リアルな一面もあるかもしれませんけどやっぱり基本サスペンスフルで娯楽作品です。
選挙の駆け引きと陰謀と女です。エリートの成長と挫折と居直りの物語です。
なんか馬鹿にしてるみたいですが、そういうところを実は評価しています。
つまり政治的思想的に本気度が高く力みすぎてしまった「グッドナイト&グッドラック」より、こっちのほうが随分出来が良いと思ったんですね。娯楽作品の中に政治的なエッセンスを混ぜ込むことの難しさを考えると、いっそこのくらい娯楽色を全面に出したほうがバランスとしてはいいと思うんですよ。

「選挙の実態」みたいな見方は「スーパー・チューズデー」の見方のひとつではあっても、それはほんの部分的なことにすぎません。アメリカ人にとっての予備選と、それを日本人の我々が観ることの意味と受け取り方の違いってのも大きいです。
ちなみに我々日本人が「選挙の実態」に関する映画を楽しむとすれば、それはもうやっぱりあれしかありません。想田和弘監督の「選挙」です。これは凄いですよ。これが選挙かと呻ります。そして日本から逃げ出したくなること請け合い。

というわけで「スーパー・チューズデー」は政治的な映画ではなく、選挙を舞台にした映画、選挙サスペンスです。ちゃんと娯楽作品です。
若い女の子が絡んできたり、エリートコンサルタントが調子に乗ったりちょっとしくじったり罠に嵌められたり嵌めたり、そういう面白さがしっかりあります。

出演者たちがとてもよいです。まず一番いいのはジョージ・クルーニーが主人公じゃないってところです。出番もそれほど多くなく、これが一番の良い配役。
主人公のライアン・ゴズリングは今風男の漫画的キャラクターでこういう話にぴったりあってます。
で、脇がいいんです。

いつの間にか演技派の重鎮になりつつあるフィリップ・シーモア・ホフマンです。「ダウト」に肉薄するいい役でいい演技してます。

元アイドル的人気だったのに一時期「消えた」扱いされ、でも復活したときにはたまらない大人の魅力に満ちていたマリサ・トメイです。「酔いどれ詩人になるまえに」や「レスラー」でもいい味わい出してましたよねえ。今回は小綺麗な役だったので最初この人だと気づきませんでした。

marisa tomei
Marisa Tomei

かわいいかわいいエヴァン・レイチェル・ウッドです。もうすっかり大人になりました。でもおぼこい面影がまだ残っています。「ダイアナの選択」観ましたか?若い頃のユマ・サーマンを演じるという、マジかよと思うような役でしたね。「レスラー」の娘役も泣かせました。この人、2013年に公開予定の映画にたくさん関わってますよ。注目の売れっ子女優ですね。

Evan Rachel Wood
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一度あの太い眉毛と情けなさそうな顔を見ると絶対に忘れないマックス・ミンゲラです。最近「アレクサンドリア」と「ソーシャル・ネットワーク」で印象を残しました。いい映画に出てますね。じつは「シリアナ」にも出てたんですね。

ずるい議員を演じたジェフリー・ライトもいいし、他の人もいい映画に出てる人多数。
と、まあいろんなタイトル名もがんがんだしましたが、皆さんわりと良作品に出てる脇の人たちです。こうした脇の人たちが本作の価値をぐーっと引き上げてますよ。

音楽のアレクサンドル・デスプラも改めて見るとなかなかのタイトルに関わってるんですね。へえ。

というわけで普通に面白い「スーパー・チューズデー」でした。この作品の中で一番かっこよくて「すごいぜっ」と思わず口に出た人は、ポール・ジアマッティ演じる相手陣営の選挙スタッフボスでした。どうカッコいいかは見てのお楽しみ。

普通のサスペンスを楽しみたい人におすすめです。これまでジョージ・クルーニーを舐めていた人にも、見直す機会として。ちょっと年食ってきて良くなってきましたよ。

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