挑戦

Los Desafios
3章3人の監督によるオムニバス映画。製作エリアス・ケレヘタが起用した監督は、クラウディオ・ゲリン、ホセ・ルイス・エヘア、そしてビクトル・エリセの三人。
挑戦

「アメリカ式生活様式と暴力」と言ったテーマが見え隠れするオムニバス映画「挑戦」は1968年のスペイン映画。不穏な情勢の中、この象徴的な映画を製作したのはエリアス・ケレヘタですが、なんとこの映画の最初の企画はアメリカ人俳優ディーン・セルミアが同胞ジャーナリスト、ビル・ブルームとともに発想して財源を確保してオファーしたものだそうです。
エリアス・ケレヘタは当時国立映画学校の生徒で特に抜きんでた才能の三人を監督に起用、三章を担当したビクトル・エリセもそのひとりです。これがエリセのデビュー作となります。

発案者ディーン・セルミアは3本の短編すべてに出演しております。「アメリカ式生活様式と暴力」という最初のテーマは、製作進行と共に薄れていき、当初予定されていた一貫したストーリーも、無関係な三本のオムニバスというふうに変わっていったそうな。

ビクトル・エリセの三章にいたっては、脚本を巡って対立も起こり、最初の構想から完全に逸脱した作品として完成されたらしいんですね。もう最初から芸術家魂炸裂なんですね。その炸裂っぷりは、この特別変な三章から滲み出ています。

そうした対立よりももっと深刻なのはやはり当時のスペイン情勢から来る問題、そうです、検閲と許可の問題です。「挑戦」が製作者エリアス・ケレヘタの偉業と言われるのも、国との折衝において果たした役割の大きさに起因するのでしょう。

そもそも最初から何度脚本を手直しして提出しても撮影許可が下りず、えいくそと、許可がないまま撮影して完成させたんですって。その後上映に至っては「撮影の許可がないから撮影されていない映画である。撮影されていない映画は存在しない映画である。したがって上映はできない」と上映許可が得られないという状況です。ケレヘタは直接検閲局に出向き、「カンヌから出品要請を受けている」と大嘘をついて上映にこぎ着けたそうな。権威主義の独裁体制には外圧をほのめかすのが効果的なのでありますね。

いやしかし当時の政権下でよくこんな映画を作り上げたものです。ピカソもブニュエルもみんな海外に亡命してますよ。貴重ですね。

さて、どんなお話なのか全然知らぬまま見始めて、第一章でいきなり度肝を抜かれます。
裕福そうな家庭なんですが、ちょっとだらだらしていて、年頃の娘に会いにアメリカ軍人がやってくるんですね。娘ははしゃぎ、お母ちゃんもお気に入り、お父ちゃんは気に入りません。なんだあのアメリカ人は。むすっとしてます。ちょっと常軌を逸した娘と母親と米軍人の躁状態が続き、厭な厭な空気がゆっくりと充満してきたあげくに・・・。
ちょっとこれ以上は言えませんが、なんですか。この作品は。もうびっくりですよ。すごいです。謎です。呆れます。これ大好き。

第二章は田舎にやってきた若者カップルです。勝手に牧場の牛と闘牛ごっこをして牧場主にひっつかまりますが、何となく牧場主家族と仲良くなってきて、挙げ句の果てに・・・・。
第一章の直後なので驚愕の度合いは少ないですが、それでも最後のほう、ヤケクソで歌うシーンがあるのですが鬼気迫りすぎて釣られて発狂しそうです。これもなかなか凄いです。

第三章は人がいなくなった村にやってきた若者の集団です。猿もいます。前二章は古風なスペイン人家族に異質なアメリカ人がやってきて引っかき回す話だったのですが三章は少しばかり様子が違っていまして、アメリカ人が混ざっている若者のグループの旅と遊びの物語です。
ヒッピームーブメントの頃らしい若者たちで、恋愛や男女を超えた関係を築いているように見えますが内心では恋愛感情や嫉妬にめらめらしていたりして、偽りの青春ごっこをしているという、懐かしい感じすらあるお馴染みの若者の姿です。比較的淡々と進行していきますが、だんだんと心と体の問題が示されはじめ、挙げ句の果てに・・・。
絵面や画面の雰囲気がビクトル・エリセの天才性を垣間見せています。映像でキメます。話は鬱々していますが何やら強い力はすでに備わっていますよ。

と、そういう三つの作品が収録されたオムニバス。スペイン情勢の問題を暗喩しているようにも見えるし、アメリカの問題をスペインに託しているようにも見えるし、単に若き才能が思いの丈をぶつけたようにも見えるし、いろんな意味で深読みも可能ですが、どちらかというと私は素直にピュアに三つの物語として堪能しました。貴重な映画を見ることができたもんです。単に面白かったー、なんて言っていいのかどうか判りませんが、単に面白かったんですよね。しょうがないですね。

「挑戦」は紀伊國屋から出ているDVDボックスに収録されています。このボックスは「挑戦」「ミツバチのささやき」「エル・スール」の三本立てで「挑戦」は貴重な作品でありがたいですが「マルメロの陽光」は入っておりません。入れてほしかったなあ。

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