無言歌

夾辺溝
何にもない荒野で無意味な強制労働をさせられている罪人たちの餓えと絶望。
無言歌

何もない風吹きすさぶ荒野で農作業の真似事をやらされている罪人たちですがもちろん農作物など育ちません。これは懲罰的な無意味な強制労働です。無意味なことをやらされるほど人間の尊厳を踏みにじることはありません。例えば「穴を掘れ。掘ったか。では埋めろ」みたいなのと変わりません。

延々と続く荒野ですから寝泊まりは洞窟です。ここで集団生活させられています。しかも食べ物を碌に与えられません。餓えています。餓死するものもいるほど餓えています。つまりこれは「死ね」と命じられているわけです。おぞましいです。

罪人と言いましたがその罪は文化大革命直前に政権を批判した罪です。つまりこの虐待はかつての言論人や有識者たちで、共産党を批判した人々です。

毛沢東は一時期「共産党に対する批判を歓迎する」と、言論の自由を保障するようなことを提唱していました。しかし後に一転、批判した人達を激しく弾圧し粛正します。なんという恐ろしい罠でありましょうか。批判的な連中をあぶり出しまとめてポイです。

そういうわけで反体制的な知識人たちは辺境の地の名ばかりの再教育収容所へ詰め込まれ、過酷な状況の中、餓えや過労や病気でどんどん死んでいったりします。
「反右派闘争」という反体制狩りです。
この映画はそんな収容所というか辺境の荒野にある収容施設を描いた作品です。

監督のワン・ビンはドキュメンタリー映像作家で、ストーリーのある長編映画は「無言歌」が初だそうな。

原作もあるようですがよく知りません。監督のことも知りません。ただ「無言歌」を見ただけですが、まあその、気合いをものすごく感じとることができる渾身の作でした。

ただただひもじくて辛いです。出来事らしい出来事もあまりなく、洞窟で寝泊まりし、餓えで思考力も奪われ始めている人達を描きます。
この罪人たちが知識層であるが故の強烈な絶望と失意を感じとれるでしょう。過酷な状況を示すエピソードもきついです。

私はこういう映画はとても大事であると思います。
ただしかし、単純に映画作品として見たときには少々退屈を感じるかもしれません。あまりにも物語性に乏しいためです。その分、映像には力が入っていますし、荒野に圧倒されている隙に時間が過ぎていきますけど、他にいくつかある圧倒的な映像の名作たちのようにはいかない部分もあります。そうですね、体調なども影響するかもしれませんし観るときの気分にも左右されますから一概には言えませんけど。

ときどき凄いシーンもあるし、ぐっとくるところもあります。例えば人の吐いた吐瀉物を食べるシーンなどは強烈すぎて他のすべてが退屈だったとしてもこのシーンだけで「無言歌」を観る価値があるとか思ってしまいますし、後半の人々の描き方もどんどんよくなってきます。
でもやっぱり正直、ちょっと疲れました。
でも監督の取り組みや姿勢は強く支持するものであります。

さて中国では毛沢東率いる共産党が独裁政治を推し進めます。共産党は左翼ですから、共産党を批判する人は右翼分子です。
最初に「反右派闘争」の言葉を見たときは、共産党が右派だから「反右派」つまり反体制の闘争かと思ったんですがそうではなく「右派闘争」の反、という言葉のようです。
政権与党であっても共産党が左派で、その批判者が右派ということですか。一応、常識としてはそうなんですね。なんだか腑に落ちません。と、いうのも、右派とか左派とかって言葉の意味があまりわかりません。
私の元々の理解では政権側が右翼で、そうでない、つまり野党、つまり批判者、つまり反体制が左翼と思っていました。どうやら違うみたいですね。
常識的には共産主義的あるいは社会主義的な思想を左翼思想、それに対する反対の立場が右翼思想ということみたいですが、共産主義はともかく、社会主義的な思想の反対というのは何ですか。社会を否定するアナーキズムですか。すると、右翼というのはアナーキストのことですか。よくわかりません。でも日本の極右は共産主義者とほぼ等しいし共産主義と言えば独裁ですよね、独裁と言えば原理主義的資本主義も独裁に行き着くしわけだし、ますますわけわかりませんね。 笑

まあ何しろ独裁政権に対して批判すると左翼右翼関係なしにそれは「反権力思想」ということで、で、権力を批判すると政権から攻撃を受けます。これは何主義だろうと同じです。

もう意味のわからない右翼とか左翼とか言うの辞めて、権力主義(権力が大好き。権力に従う人、権力に身を捧げる人、支配者または幸せな奴隷)と非権力主義(権力は信用ならないから監視する、権力に権力を持たせすぎるなという人。いわゆる民主主義者)に分け直した方がいいと思いますが、まあこのような戯言はまともに聞かなくてよろしいですので念のため。

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