女王陛下のお気に入り

The Favourite

「籠の中の乙女」「ロブスター」「聖なる鹿殺し」のヨルゴス・ランティモス監督が18世紀初頭のイギリスを舞台に女王陛下と二人の女官のどろどろ愛憎劇を描き倒す「女王陛下のお気に入り」です。

女王陛下のお気に入り

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これはヨルゴス・ランティモス監督の新境地か。これまでの作品とは随分趣の違う映画で、でね、これ面白いんです。ヨルゴス・ランティモス監督を、ちょっと変わった映画を撮る色物監督とか思ってる人(なんかいないでしょうけど)が「女王陛下のお気に入り」を観たら吃驚仰天間違いなし。女三人のドラマをこんなに面白く普通に(というと語弊あるけど)撮れる実力派と言うことに誰も異論を挟めないでしょう。

という、女王陛下と二人の女官のお話です。この三人ったら、とんでもなく魅力的で、大きな物語のうねりから細かいちょっとした部分にある命が吹き込まれた細部に至るまで、のめり込ませていただけます。鋭い脚本、ドキドキ演出、ぶっ飛び撮影、そして三人の壮絶演技力と女優の魅力ですわな。完璧ドラマのひとつがここにあります。

さて気を取り直してヨルゴス・ランティモス監督ですが「籠の中の乙女」で度肝を抜かれて以来の要注意監督でかなりの特異監督。「アルプス」は観れていないですが「籠の中の乙女」「ロブスター」「聖なる鹿殺し」でファシズムカリカチュアライズ三部作と勝手に観る人に思い込ませたあげく「女王陛下のお気に入り」みたいな貴族ドラマを作ったりするもんだから油断できません。

前作までの作品と無理矢理なにか共通点を見つけるとすればやはりそこにあるのは社会性でしょうか。ファシズムについてとことん考察し続けた果てに世に出した貴族の世界です。戦争で市民が苦しんでいる傍らアヒル競争に高じる変な人たちです。支配するものとされるものの構図、トップの女王陛下はお気に入りサラの言いなり、野心に燃えるアビゲイルの策略は己の欲望に従うだけ。民のことなど誰も考えない政治の世界の馬鹿馬鹿しい騒動を情感たっぷりに描き倒します。

ただしこれまでの作品にあったとてつもない脚本の力というのはこの映画にありません。「とっても面白いドラマ」はあります。答えはヨルゴス・ランティモス脚本書いていない、です。

「女王陛下のお気に入り」の脚本はデボラ・デイヴィスとトニー・マクナマラの連名。でもこの二人ともまったく知りません。ヨルゴス・ランティモスはプロデュースもしていますから、単純に雇われ監督という位置付けでもなさそうです。自身のアイデアを指示出して脚本化したのかもしれないですし、そういう事情をまったく知らないのでなんとも言えません。とにかくヨルゴス・ランティモスの脚本ではないということはひとつの特徴であります。

さてドラマの面白さは三人の女優さんの力と共に宿っていて、一言でいいきれない魅力に溢れています。一言でいうと女優すごいです。言いましたけど。

レイチェル・ワイズは超が付く安心印でいつものごとく素晴らしい演技力でもって魅力を振りまきます。憎たらしく面白い前半から心にぐっとくる後半まで、この人ほんと完璧ですね。

エマ・ストーンが意外にも女優の底力を感じさせましたね。最初のほうでは策略を練っているのを知っていながら「がんばれー」と応援したくなるんですよ。そしてある時を境に悪さが目立ってきて観ているこっちの印象も変わってきます。そういう客のコントロールを出来るほどの演技を果たしましたよ。そして最後のほうでは実に複雑な心境を表現しました。野心家が望みを手に入れたとき、どうなりますか。欲望は尽きぬとも、真の支配者になることまでは不可能です。わかっていますとも。で、自分がやってきたことは何だったのか。頂点は女王に仕えることなのか。いやほんと、これほど実力ある人とは。

そして今作で大注目いちばん凄いのは女王陛下を演じたオリヴィア・コールマンですよ。この女王の役作りと演技、これは観ておくべき価値があります。マジすごです。アカデミー賞で主演女優賞を受賞したんですか。当然の受賞と言えますね。でもこの映画って、それほどメジャー作品だったんですか。

女三人ドラマについてああだこうだと言いだしたら言いたいことだらけで取り留めつかなくなるので割愛するとして、もうひとつ「女王陛下のお気に入り」で極端に個性的だったのはカメラです。

ものすごい広角レンズで撮ります。広角レンズがうにょーんとうねります。笑っちゃうほど広角です。もともとどっちかというと広角レンズ派としてはこの過剰とも言える広角レンズに心で喝采を送りまくりでした。私、広角レンズ派であり、過剰派でもあるのです。

宮廷そのものももちろん見応え大ありでした。宮廷ってすごいですね。ごちゃごちゃですよね。ハプスブルク家の隆盛とはいったい何だったんでしょう。美術や建築に関わるものとして避けて通れぬタブーの世界がそこにあります。野心を手に入れた後のアビゲイルのように、移民排除を叫ぶ元移民侵略者のように、国民の犠牲の上に富を集中させた貴族をスポンサーとする以外に発展し得なかった美術が持つ越えられない隷属の屈辱がそこにあります。

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