アレクサンドリア

Ágora
アレハンドロ・アメナーバルの歴史大作「Agora」、日本ではどうなったんだよー、って思っていたら「アレクサンドリア」という邦題で紹介されていました。
アレクサンドリア

天才アレハンドロ・アメナーバル作品に外れなしなので「Agora」には大いに期待していました。
監督が大物になると歴史大作を撮りたくなるのでしょうか、なんとなく昔ながらの映画って感じで好感触、でも歴史大作って意外に難しい気がします。大作すぎて個性が出にくいかもしれないし、大風呂敷すぎて散漫な結果になりはしないかとの危惧ですね。

「アレクサンドリア」はローマ帝国時代のエジプト、アレクサンドリアが舞台の物語です。邦題のアレクサンドリアはなじみ深い言葉ですが原題のアゴラというのは「市場」あるいは「広場」のことで、古代ギリシャ時代から都市の公共広場(フォルム)として機能してきた場所のことです。

4世紀末のエジプトを舞台にした歴史大作ですが、主人公は天文学者で、学問と哲学、文化のお話です。賢く強い女性の物語でもあり、知識と教養が野蛮人によって迫害される物語でもあり、恋と立場の悲恋物語でもあり、集団による憎しみと争いの物語であり、美しい美術のファンタジー物語でもあります。内容はとても現代的です。
歴史大作と聞いて尻込みする人も「アレクサンドリア」は大丈夫、きっとのめり込めます。

さて良い映画は複合的要素がレイヤー構造のように折り重なっております。この映画もまさにそうです。
まず主人公の女性天文学者のレイヤーがどーんとあります。絶世美女レイチェル・ワイズが熱演、自立した賢い女性です。ジェンダー目線でも多面的に論じることが出来そうです。
この女性天文学者ヒュパティアは実在の人物で、数学者にして天文学者にして新プラトン主義哲学者です。天文学についての探求はそれだけで大きなドラマが作れそうです。科学的な哲学・思想は現代的で、女性問題と絡めてそっち方面だけでも一本映画が作れそうです。
宗教の争いが描かれます。古代の神々を信仰し優れた美術と共にファンタジー世界を構築していたグループとキリスト教の台頭です。これは大きなテーマでセットにもたいそう金がかかっています。しかし、ただ大がかりなだけではなく、集団の形成と対立から戦争、殺戮と政治利用といったこれまた現代にそのまま通じる問題をテーマにしています。
4世紀の物語ですが、21世紀の人間もその愚かさにおいて全く変わりないということがわかります。ときどき、わずか数百年あるいは数千年の歴史の中で「人間が進化した」と言うようなおめでたい人がいますが進化などしておりません。

「アレクサンドリア」は大きく二部構成になっていて、前半に出てくヒュパティアの生徒たちや人々が後半に様々に成長、変化していく様を描き倒します。大河ドラマのようです。時代に翻弄されたり、立場や体験から登場人物たちが転がる様子は、これはもう手塚治虫の漫画を彷彿とさせます。このあたりの人間のドラマがほんとによく出来ています。
2時間強の尺では短すぎるくらいの濃密ドラマ、決して安っぽくなったり嘘くさくなったりしません。

と、まあ色んな要素がてんこ盛りの「アレクサンドリア」は、観る前に漠然と想像するいわゆる歴史大作からほど遠い緻密で丁寧な人間のドラマで、その出来映えは予想以上でした。
節々に現れる宇宙的なシーンも綺麗です。

アレハンドロ・アメナーバルはデビュー作「テシス」でゴヤ賞をかっさらった若き天才で、「オープン・ユア・アイズ」「アザーズ」「海を飛ぶ夢」と傑作を作りまくっております。音楽家でもありサウンドトラックの収集家としても知られているそうで「蝶の舌」では音楽を担当しています。

「アレクサンドリア」ではゴヤ賞7部門受賞で超絶大ヒットとなりスペイン映画の興行収入記録を塗り替えました。

個人的にはこっちのポスターが好き。

agora

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コメント - “アレクサンドリア” への4件の返信

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